そうした金融事業にも活用されているのが、アリペイの決済システムに集まってくる膨大な信用情報だ。12億人超のユーザーの日々の買い物から公共料金や税金の支払い、ローンの返済などありとあらゆるお金の出入りが決済データとして蓄積されている。それら「ゴマ粒」のような信用情報を集積して、個人または法人の信用力をスコアリング(数値化)する評価システムは「芝麻(ゴマ)信用」と呼ばれ、アントはこれを開発、事業化しているのだ。

中国では芝麻信用のスコアが社会的な信用に結びついて、スコアが高いほどローン金利や融資限度額が優遇されたり、各種サービスの予約や決済、デポジット(保証金)免除などのメリットがある。中国人がスコアアップに躍起になるのも当然だ。

芝麻信用のスコアはアリペイの決済履歴のほか、学歴や勤務先、資産状況などの個人情報に基づいて算定されているようだが、そこまで広く個人情報を紐付けた信用格付けというものは、欧米や日本の金融機関にはない。

日本の銀行などは預金と融資の担当者が別々で、10年付き合っても信用格付けができていないのだ。融資申請でいまだに何枚も書類を書かされるし、実印も捺さなければならない。審査に何日もかかる。スマホで融資を申し込むと、ビッグデータに基づいてAIが融資判断を行い、数分以内に送金されてくるアントの小口融資のシステムとは次元が違いすぎる。

「21世紀の理想の銀行(金融機関)」

世界で最も効率のいい金融プラットホームを築き上げたアントは、私の目には「21世紀の理想の銀行(金融機関)」を体現しているように映る。彼らがその強烈なシステムで丸ごとよその国に攻め入れば、既存の金融機関やクレジットカード会社はまったく太刀打ちできない。

日本では地銀をまとめて第4のメガバンクをつくろうなどという話が出ているが、そんなものは枕を並べて討ち死にである。今はまだ中国政府が手綱を抑えている状況だが、アントがチンギス・ハーンのごとく世界制覇の野心を剥き出して日本に本格的に進出したときには、日本の銀行は駆逐されてしまうといっても過言ではない。

それに、習近平が個人的な怨念に基づいてアントの上場を阻止したとしたら肝っ玉が小さい。国際決済ネットワークのSWIFT(国際銀行間通信協会)などを武器に、気に入らない国に制裁をかけるアメリカに対する最大の武器がアントなのだということに、習近平は遠からず気がつくだろう。

(構成=小川 剛 写真=AFLO)
【関連記事】
なぜNiziUは世界を興奮させるのか…日本のエンタメが「韓国に完敗」した理由
「製作費210億円のムーランが大コケ」中国依存を強めるディズニーの大誤算
「なぜ他の鉄道会社とは違うのか」関西人が阪急を別格だと思う3つの理由
三菱自、ANA……「大企業出身者」ほど転職市場で辛酸をなめる理由5
「大手私鉄16社がすべて赤字」決算発表で浮き彫りになった"最もヤバい2社"