容積率が低く高齢者の多いマンションは建て替えられない

ところが、築50年超のマンションが港区高輪ではなく、東京都下の郊外某市にあったとする。仮に私鉄の最寄り駅から徒歩12分、容積率を調べてみると、まったく余っていなかったら……。

この場合、このマンションを建て替えようとすると、費用はすべて現在の区分所有者の負担となる。

今の建築費相場観から推計すると、マンションを新たに建て替えるには取り壊し費用も含めて、1戸当たり約2500万円が必要となる。他に、建て替え期間中の仮住まい費用まで発生する。

「そんなお金はないから、建て替えなくてもいい」建物が老朽化しているということは、そこに住む区分所有者も少なからず高齢化している。特に郊外型の分譲マンションは、区分所有者の入れ替わりが少ない。

新築時から暮らしていて高齢化した方の中には、建て替え費用を負担できる人もいれば、年金でギリギリに暮らしている人もいる。

手すりにつかまりながら階段を下りる年配の女性
写真=iStock.com/banabana-san
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こうして区分所有者同士で建て替えについての意見が賛成と反対に分かれた場合は、どうなるのか。

現実的には、ほとんど建て替えは不可能となるのだ。

現行の区分所有法をはじめとした諸法規では、全区分所有者の5分の4が賛成すれば、建て替えを決定することが可能である。最後まで反対する人の住戸は、強制的に買い上げることができるという規定もある。しかし、そこまでして建て替えているケースはまれである。

ほとんどのマンションは自己負担で建て替えるしかない

だいたいからして、各自が約2500万円以上を負担する建て替え決議案に、全区分所有者の5分の4が賛成するケースは少ない。

というより、私は今までにそのような「全額負担」で建て替えたケースを知らない。

建て替えたら、負担した約2500万円よりもはるかに資産価値評価が高い住戸を得られるようなケースなら、5分の4まで賛成者を増やせるかもしれないが、先に上げたように「東京都郊外の○○市、駅徒歩12分」の場合、約2500万円以上の資産価値評価になるケースは少ない。

今後はさらに、こういった条件が厳しくなりそうだ。

このように現行法の規定では、マンションの建て替えはかなり困難である。それでも、マンションの老朽化は日々進んでいく。

では、どうすればいいのか。私も日々この問題を考えているが、うまい解決策はない。ある程度私有財産権を制限するような法規を新たに設けるか、現行法の運用規定を変えていくしかないだろう。

そうした法規制の緩和で、よりスムーズに建て替えが進むようにするのだ。私有財産権を一部制限するなどの法規制緩和が実現したとしても、費用の問題は残る。

マンションはあくまでも私有財産であり、そこに公的な資金は注ぎ込めない。建て替えるにしても、費用負担は各自の自己責任でまかなうしかないのだ。