コロナ禍における世界各国の事例を踏まえると、集団免疫が獲得されていない状況下で人の移動が活発化すれば感染者は増加する。ドイツや米国の状況はその良い例だ。わが国では、Go Toトラベル利用者の中から感染者が出ている。無症状の感染者もいる。感染経路の特定も困難になっている。

医療の逼迫懸念が高まる状況下、政府は何よりも国民の健康と生命を守らなければならない。そのためにはソーシャルディスタンスの強化は不可避であり、Go Toトラベル事業の一時停止をはじめとする感染対策は迅速に行われなければならなかった。

なぜここまで遅れてしまったのか

菅政権の意思決定が遅れた要因として、菅政権が感染対策に取り組む一方で、経済活動の維持にもこだわり政策の優先順位が揺らいだことが指摘される。

菅政権が経済を重視した背景には、コロナショックによって業況が悪化した飲食、宿泊、交通などへの打撃を避けたいとの思惑があったと考えられる。デジタル化が遅れるわが国の経済にとって、人の移動が制限されることの影響は大きい。特に、飲食などへの打撃は深刻だ。Go Toトラベル事業は、政府が補助を行うことによって外食や宿泊需要を喚起し、関連産業の需要下支えに重要な役割を果たした。

また、年末年始は飲食や宿泊、交通関連の事業者にとって重要な書き入れ時でもある。その状況下、政府は感染対策の重要性を認識しつつも、経済的な悪影響を恐れるあまりGo Toトラベル事業の一時停止に二の足を踏んでしまった。

党内の政治的な利害を無視できない

また、今回の遅れの一因には政治的な要因も絡んでいるかもしれない。与党内には飲食や観光などの産業を重視する声がある。菅政権はそうした党内の意向にも耳を傾けなければならなかった。

地方経済の振興に大きな影響を与えたインバウンド需要が蒸発した状況下、国内の観光需要を喚起することは各地の経済を支えるために不可欠だ。それが、政治家への支持にも影響する。ある意味、菅首相は党内の政治的な利害に忖度せざるを得ず、リーダーシップを発揮することが難しかったといえる。

感染対策を徹底しなければならないことは、新型コロナウイルス感染症対策分科会の提言で示され、政権内でもその重要性は共有されていた。その一方で、Go Toトラベル事業を見直すと、需要の低下に直面した事業者にさらなる下押し圧力がかかる。結果的に、経済活動の継続を優先する考えが感染対策を上回り、政策運営の意思決定が後手に回った。政府は人々の命を守ることが経済を守ることにつながることを、明確に理解できていなかったといえるかもしれない。