一方、「はやぶさ」初号機、「はやぶさ2」を生んだJAXAの宇宙科学研究所は「やってみなければ分からない」と、新たなことに挑戦する伝統がある。その分、大きな失敗もするが、それを糧にして取り組みを続ける。
「できるはずがない」と見る人が多かったが…
「はやぶさ」初号機の計画は1980年代半ばに始まったが、あまりに複雑で欲張った計画に「できるはずがない」と見る人が多かった。
プロジェクトを率いた川口淳一郎・JAXAシニアフェローは、物静かな印象の人だが、ひとたび口を開くと、熱い思いがほとばしり出る。「教科書に書いてあることは古いこと」「高い塔をたててみなければ、新たな水平線は見えてこない」など、新たな挑戦への意義や意欲を説く。
「はやぶさ」初号機の成功によって「ぶれないリーダー」として一躍有名になり、経営者向けの講演会に招かれるなど、科学だけでなく、さまざまな分野へ影響を及ぼした。
宇宙研のプロジェクトは、研究者が提案するたくさんの候補の中から、議論を戦わせて理詰めで選定する。そのハードルを越さないことにはプロジェクトにはならない。「予見可能性」型の宇宙開発は政治のトップダウンで決まっているが、宇宙研はボトムアップだ。
プロジェクトになった後も、大企業が失敗を恐れて引き受けない斬新なアイデアを実現するために、高い技術を持つ町工場を探して部品などの製造を頼むこともある。大手企業のエンジニアも、発注先というより現場の仲間として、プロジェクトに携わり実行していく。
約6%の低予算を有効に「しゃぶりつくす」
そして予算だ。日本の宇宙予算約3600億円は、準天頂衛星、情報収集衛星をはじめとする各種衛星、ロケット、国際宇宙ステーション(ISS)などさまざまなものを含めた総額だ。そのうち、宇宙科学に投じられるのは200億円弱で、全体の約6%だ。宇宙科学研究所の予算は191億円で、その中から「はやぶさ2」をはじめ、水星磁気圏探査、火星の衛星の探査、小型月着陸機、深宇宙探査などさまざまなプロジェクト、開発、研究に配分する。
研究者は常に予算不足だと言う。何かやろうと思えば、知恵を絞らざるをえない。宇宙科学の関係者たちはよく「しゃぶりつくす」という表現を使う。探査機や衛星を打ち上げる機会は限られているので、その機会には思いっきりさまざまなことを試す。「はやぶさ2」が、カプセルを帰還させた後、余力を使って別の小惑星へと新たに旅立ったのもその一例だ。目的の小惑星に到達するだけでなく、宇宙での耐久性などを調べる狙いがある。