政府は「欧米に後れを取り始めている」と危機感
あのNASAに後追いされたぐらいだから、「日本は宇宙大国になった」と言いたいところだが、宇宙開発全体に目を向けると、様相が違ってくる。
今年6月に政府は、今後20年を見据えた10年間の宇宙政策「宇宙基本計画」を改訂した。政府が、どんな衛星やロケットをいつ頃打ち上げるかなどの政策を記載した文書だ。その中で今回、危機意識を強調した。例えば「宇宙産業のゲームチェンジが起こりつつある。我が国の宇宙機器産業はこの動きに遅れを取りつつある」「我が国の宇宙機器産業は(中略)欧米に遅れを取り始めている」「世界で技術革新が急速に進む中、我が国では将来のビジョンが十分に描けず、先進技術への挑戦も停滞している」……。
今、世界の宇宙開発は変動期にある。中国、インドなどの宇宙新興国が台頭し、米国などの宇宙ベンチャー企業は価格破壊と呼ばれる安価なロケットや衛星作りに乗り出している。そんな情勢にもかかわらず、衛星やロケットを製造する日本の産業界は、世界の動きを先取りしたり、新しいことに挑戦したりする気持ちが薄い。その結果、遅れが目立ってきているというのだ。
確かに、ここ数年を振り返ると、中国が「量子通信実験衛星」を打ち上げたり、欧州が衛星の技術を高める「オール電化衛星」を実用化したりするなど、海外は先進的な取り組みを進め、日本の先をどんどん走っている。
技術は進んでいるのか、遅れているのか?
「世界のトップランナー」と「宇宙先進国の地位から脱落」。落差の原因のひとつに、「発想」や「伝統」の違いがある。それは「予見可能性」という言葉と、「やってみなければ分からない」という言葉に象徴される。
日本の宇宙産業界は、国の衛星やロケットなどの官需に長年にわたって依存してきた。産業界が国に求めるのは、政府がいつどんな衛星やロケットを打ち上げるかという「予見可能性」だ。それによって必要な製造ラインや人員が割り出せるので、安心して投資できる。
同じ衛星のシリーズ化も求める。例えば、日本版GPSと呼ばれる「準天頂衛星」は、当初は衛星3基を一組にして目的の機能を発揮させる予定だった。それが4基になり、今では7基を目指している。北朝鮮のミサイル発射を機に導入された「情報収集衛星」も4基を一組にして機能を果たすはずだったが、データを中継する衛星などを含め今は10基体制を目指す。全く同じものを作り続けているのではなく技術の進歩なども取り入れてはいるが、発想、価値観、手法が固定化されやすい。