日本銀行が上場投資信託(ETF)の購入に乗り出し、10年を迎える。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史氏は「ETFを買い続け、今や日本株の最大の株主は日銀だ。暴落を招くため簡単に株を手放すことはできず、出口はない」という——。
金融政策決定会合後に記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=2020年10月29日、東京・日本橋本石町の同本店[代表撮影]
写真=時事通信フォト
金融政策決定会合後に記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=2020年10月29日、東京・日本橋本石町の同本店[代表撮影]

1万円札の図柄はトヨタ・レクサスに

ちょうど10年前の2010年12月に日銀が株を買い始めたとき、私は「そんなことをしたら、今に1万円札の図柄がトヨタ・レクサスに変わってしまうぞ」と揶揄やゆしたものだ。

金本位制時代には日銀発行券の価値は金が担保したが、今は不換紙幣で金が担保しているわけではない。日銀は「健全なる金融制度が紙幣の価値を担保している」との公式発言をしているが現実問題として、その保有資産の健全性が、日銀券に信頼を与えていると考えられる。

その意味で、日銀資産の多くが株式になるのなら、日本の代表的企業トヨタの旗艦車レクサスがシンボルとして1万円札の図柄になるだろうと揶揄したのだ。

ちなみに日銀が株式を購入し始める少し前、日銀の支店長社宅が「贅沢すぎる」と世間のやり玉に挙がり、日銀が売却を余儀なくされていた。贅沢すぎるのが非難の主因だったが、「保有資産が日銀券の価値を決めるのに、価格の変動する不動産を日銀が保有するのはいかがなものか?」との議論が専門家の間では行われていたと記憶している。

私は、「何だよ、つい先日まで『売れ、売れ』と攻撃していた世論が、今度は、『買え、買え』かよ~。不動産は駄目で、株はいいのかよ~」と、世論のいい加減さにうんざりしたものだ。その1万円札の図柄はいまだレクサスに変わってはいないものの、日銀は、いまや日本最大の株主になってしまったようだ。