市場の歪みと企業のモチベーションの低下

民営化が不可欠なのは競争力強化の観点からだ。株式会社の持ち主は、本来、株主である。西洋社会では、それが徹底している。儲けを出さない経営者は、企業の持ち主である株主に、すぐに首を切られてしまう。だから経営者は必死で利益を上げることを考える。

しかし、日本の場合、「会社は株主のもの」とは言い切れない。企業のステークホルダー(利害関係者)として、株主の他に、経営者、メインバンク、労働組合、地域社会など「利益の極大化が目的でない」参加者が多くいる。それが経済産業省の望月晴文元事務次官の「日本企業は、欧米企業に技術で勝って利益で負けている」との発言の原因と言える。

ただでさえ、欧米企業に比べ、利益極大が最大目標の株主の存在感が無いのに、その株主さえ利益極大化が目標ではない日銀がなってしまうのなら、日本企業の利益向上へのモチベーションは著しく落ちるだろう。

ボカシのかかった聴衆とプレゼンター
写真=iStock.com/DIPA
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利益が上がらなければ企業は国際競争で脱落し、日本人は働く場を失っていく。税収も上がらない。

ゾンビ企業に退場通告をするのは株式市場の役割だ

企業の国営化が進めば、その国はまさに社会主義国家と言える。社会主義国家が資本主義国家に負けるのは、歴史が証明している。前述のように、儲けのインセンティブが失われ、国際競争で敗れるからだ。

さらに日本では株式市場だけなく、国債市場、不動産市場でも、日銀がモンスターとなり、価格を牛耳っている。これでは市場という優れた経済調整機能を殺した計画経済そのものだ。

たとえば、市場機能が働いていれば、財政悪化に対して長期金利上昇という警戒警報が鳴る。「政治家さんよ、ばらまけば、経済には多少なりとも良い影響があるかもしれないが、長期金利の上昇が経済を下押ししますよ。財政出動はほどほどにね」との警報だ。

ところが、今のように、日銀が国債を爆買いすることにより、長期金利の上昇を押さえつければ、警報が鳴らず、痛みを感じないバラマキで、財政赤字が膨大化してしまう。

ゾンビ企業に退場通告をするのは株式市場の役割である。市場原理(儲かるか儲からないかで判断を下す)の働かない日銀が最大株主になれば、その株式市場のその役割が失われ、産業の新陳代謝が遅れてしまう。その結果、日本は経済三流国、四流国へと落ちぶれていってしまうのだ。

価格が大きく動くものを中央銀行は買ってはいけない

今まで述べてきたことは中央銀行が株式を購入することに関しての中長期的な問題点だ。潜在的問題点と言ってもいい。しかし、日銀以外の他の中央銀行が株式を買わないのは、「中央銀行は株を買ってはいけない」が常識だからだ。