羊頭狗肉はある程度許される

これらは論外としても、あまりに一般的なタイトルでは、興味を引かないでしょう。例えば、「人生をいかに生きるべきか?」、「これから世界はどうなるか?」などというタイトルでは、空気のように通り過ぎていってしまいます。

もっと具体的なタイトルが必要です。それによって、内容を的確に伝える必要があります。しかし、具体的であるだけでは、なお、読み手の意識を素通りしてしまう危険があります。

タイトルが読み手の意識に引っかかることが必要です。そのためには、強力なメッセージ、読んで印象に残る表現、月並みではない内容が必要です。羊頭狗肉は推奨できませんが、ある程度は許されるでしょう。

そして、「この文章が私の生活にどう関係があるのか?」という問いに答えなければなりません。

辟易するウエブ記事のタイトル

タイトルをどう付けるかは、昔からきわめて重要な課題であったのですが、インターネットの普及によって文書の供給量が爆発的に増えたため、タイトルの付け方がさらに重要になりました。いかにしてタイトルによって読者に興味を持ってもらうかが、一層強く意識されるようになったのです。

野口悠紀雄『書くことについて』(角川新書)
野口悠紀雄『書くことについて』(角川新書)

ウエブの記事では、印刷物と違って全体を一覧しにくいため、「タイトルで勝負をする」必要性が高いという事情もあります。このため、ある種のバイアスが生じています。ウエブの記事によくあるスタイルは、つぎのようなものです。

第1は、ショッキングな事実を示す(ショッキングでなくても、そう見られるような表現にする)。そして、つぎに「その理由」などと書くスタイルです。例えば、「中国が貿易戦争で勝てない意外な理由」など。

第2は、「○○事件で新聞が報道しない3つの重大事」、「内輪の関係者だけが知る驚愕の事実」などです。「ここだけの話だから、決して他言しないでほしい」という触れ込みで始まる口伝えのメッセージが、昔からありました。それと同類です。

第3は、「日本人が知らない世界の常識」、「日本人が知らない本当の世界経済の授業」などというもの。つまり、「よその世界では常識になっているのに、あなたが知らない」というものです。

確かに、こうした書き方は好奇心を喚起し、読みたいという気を起こさせます。しかし、あまりこのような陳腐なタイトルばかりが現れると、鼻につくし、うんざりします。

ウエブでのタイトルの陳腐さには、本当に嫌な気持ちになります。実をいうと、私が書いた記事にこうしたタイトルが付けられてしまう場合があるのです。「助けてほしい」と泣き出したい気持ちです。