交際相手の話題がないと会話ができない?

「なんだか難しそうなことをあれこれ言われて会話がしづらくなるな」と思われる方もいるかもしれません。ただ、最近の営業や接客などでは、このようなことが徹底されてきているように感じます(相手が不快に思ったら終わりですから、当たり前といえば当たり前ですね)。接客ではなかったとしても、取引先との会話で、過度にプライベートに踏み込んだことによって信用を大きく失ったという事例も耳にします。

神谷悠一、松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』(集英社新書)
神谷悠一、松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』(集英社新書)

職場は仕事の場ですし、仕事を共にする人が不快だと受け止める話題を出さないことは、最低限のマナーといえるはずです。繰り返しとなりますが、一度話してみて、相手が嫌がる場合はもちろんですが、濁すような反応があった場合でも、次回は話題にすることを避けた方がいいかもしれません。

たとえ交際相手に関する話題ができなかったとしても、仕事上の話題、差し障りない範囲の趣味や、メディア報道に関する話題などから、相手との共通点を見つけることで親近感を共有することは十分に可能なはずです。むしろ、相手の反応を見極めながら、適切な話題を探せる注意深さこそ、これからの時代に求められるビジネススキルの一つといえるのではないでしょうか。

「苦痛を与える質問かも」という想像力を持つ

それでもなお、「交際相手に関する話題」を封印されるのは、やりづらいという方もいらっしゃるかもしれません。

そういった方に気づいていただきたいのは、多くのセクシュアルマイノリティは、この「交際相手」の話題を封印されている、もしくは制約されているという点です。カミングアウトをしているセクシュアルマイノリティでなければ、そもそも「交際相手」の話題で親近感を共有しようとする行為そのものが、自分が当事者であると気づかれかねないリスクとなります。

それでもなお、交際相手について話題にしようとすれば、同性のパートナーの存在を異性パートナーと偽る、自分とパートナーの性別をそれぞれ偽るなど、高度な会話テクニックが必要となり、やはり面倒な話題であるといえます(たまにそのようなテクニックを使いこなすことに慣れすぎていて、苦もなく会話を回す方もいらっしゃいますが、できれば本来必要がないはずのそのような思考容量は、業務上必要なことに活用してほしいと私〈神谷〉は思ってしまいます)。

このように、「交際相手」に関する話題が封印・制約されている人もいるのだ、ということを頭の片隅に置いていただき、そのような話題ではなく、他の話題で職場で働く人のモチベーションを高めたいところです。