菅さんの話し方は、派手なワンフレーズに頼らずとも、人々の心に訴えかける力を持っているように感じます。

私自身、アナウンサー職を務めた経験から言えば、アナウンサーにもキャッチフレーズを前もって用意しておき、ここぞというときに切り出すタイプと、状況を理解したうえでその都度、適切な言葉や描写を選ぶタイプがいます。同様に、政治家のスタイルも派手なスローガンで国民にインパクトを与えるタイプと、状況や政策を理解したうえで適切な言葉を選んで発言するタイプがいますが、菅さんは間違いなく後者に当たります。

菅さんの言葉には、常に責任が伴っている

迎合せず、できないことは言わない。リップサービスはしない。思い付きや問題意識だけで無責任にパッと口にするのではなく、解決のために何が障壁になっているのかなどをすべて理解し、自分自身が納得してから言葉にされている。つまり菅さんの言葉には、常に責任が伴っているのです。

携帯電話料金の値下げにしても、単なる国民受けを狙っての聞きかじりではなく、ずいぶん前から専門家に話を聞き、料金体系の構造、業界の状況、値下げの目算などを菅さん自身が理解し、ご自身のフィルターを通したうえでお話しされている。だからこそ菅さんの言葉には説得力があるのでしょう。言葉が「生きて」いるのです。

しかも「俺が俺が」とご自身が前に出るのではなく、時に一歩引きながら、人や制度、構造そのものを動かしていく。自身が脚光を浴びることよりも、政治を動かし、国民生活を向上させること、つまり結果に重きを置く菅さんの「仕事師」的な姿勢のなせる業なのではないでしょうか。

近年、政治が「ポピュリズム化」「劇場化」しているといわれます。小池都知事のように、「東京大改革」などとぶち上げれば確かに目立ちますが、では実際に都民生活、あるいは行政が改善されたのかといえば、甚だ疑問です。

一方、菅さんの姿勢は、こうしたパフォーマンスとは全く無縁です。もし日本の世論が、パフォーマンスによってつくられた「ふわっとした民意」に左右されるとなれば、それは菅政権の一番の敵になるでしょう。菅総理がコロナについて「東京問題」と発言し、小池都知事が挑発的に反応したことで、菅さんと小池さんが不仲だと煽るメディアもありました。しかし、菅さんには、小池都政を批判する意図はなかったのです。東京における感染拡大が収まるまでは、コロナが解決したとは言えないというのが真意でした。

しかし、もし「制度と制度の隙間でもがいている人たちに手を差し伸べる」「困っている人の生活を少しでも良くしたい」という政治の基本や原点を地道に追求する菅さんの政治が国民に評価されることになれば、この国は大きく変わる。菅さんの政治スタイルを国民がどう受け止め、評価するかは、今後の日本を左右する大きな転換点になるのではないでしょうか。

(構成=梶原麻衣子 写真=日刊現代/アフロ)
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