「介護現場の人間はみな疲弊しきっています」

リハビリの専門職には3種があります。起き上がる・立ち上がる・歩くといった基本的な体の動作ができるようにする理学療法士(PT)、手を使って、何かをつかむ・食事をする・字を書くといった日常的な動作ができるようにする作業療法士(OT)、言語機能や発声に不安がある患者さんに聞く・話すといったコミュニケーション能力を回復させる言語聴覚士(ST)です。

老人ホームの女性
写真=iStock.com/SetsukoN
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理学療法士と作業療法士は機能回復のリハビリを行なうために患者さんの体に触れますし、言語聴覚士は誤嚥を防ぐサポートをするため口の中に触れることがある。3職種とも感染のリスクに常にさらされているといえます。

「感染が拡大し始めた春先は、日本人の多くの人が得体の知れないウイルスに対する不安を感じ、緊張したと思うんです。でも、3密を避ける、ソーシャルディスタンスをとるといった予防策によって少しは安心できたはずですし、第2波が収まった頃はGoToキャンペーンなどによって息抜きすることができた。しかし、医療従事者と介護従事者は3月ぐらいから、ずーっと緊張しっ放し。第3波が起きてからは、さらにそれが増しており、これからも延々と続くのです。私に限らず、介護現場の人間は疲弊しきっています」とSさんは苦しい胸の内を明かします。

それに加えて最近、訪問リハビリの専門職の人たちを悩ませる事態が起こりました。

訪問リハビリを行う専門職の多くが職を失う可能性

2021年4月の介護報酬改定で厚生労働省が「訪問看護ステーションによる訪問リハビリの抑制」を検討していることです。現在、在宅介護でのリハビリの多くは訪問看護ステーションに所属するリハビリ専門職が担っています。厚労省がそれを抑制しようとしているのは「訪問看護ステーションは看護師が医療的ケアをするためにあるが、最近は訪問リハビリの比率が高くなっており、本来の役割を失う懸念がある」ということからです。この背景には訪問リハビリの多利用が介護保険財源の圧迫につながるため抑制したいという国の本音が見え隠れします。

この改定案が通ると、訪問リハビリを行っている専門職の多くが職を失う可能性があるそうです。

「私たちの雇用問題だけではありません。現在、在宅でリハビリをされている患者さんやそのご家族にとっても困ることなんです」

そう言ってSさんは、具体例を語ってくれました。

「病気での入院がきっかけで要介護生活に入る方は少なくありません。病気の影響や入院生活によって体の機能が弱り、自力でトイレに行けなくなったりするのです。そこで私たちが訪問し、トイレに行けるようリハビリを行うわけです。自力でトイレに行けるかどうかというのは患者さんの心身に及ぼす影響が大きいものなんです。オムツをし、ご家族や介護サービスの人にその処置をしてもらう状態になると患者さんは精神的に弱り、衰えも進行してしまいます。でも、自力でトイレに行ければ気持ちは前向きになり元気になれる。ご家族の負担も軽減されるわけです。訪問リハビリを抑制されたら困る方はたくさんいるんです。また、リハビリの利用過多が介護保険財源を圧迫しているといいますが、患者さんの機能が回復に向かえば介護サービスを減らすことになり、結果的に財源を守ることにもつながる。にもかかわらず短絡的に抑制するというのは意味が分かりません」