中国や韓国がたびたび日本との「歴史問題」を挙げるワケ

上記のメカニズムで憤りは敵国へ報復すべきというコンセンサスを生みだし、国内アクターの攻撃的政策(開戦決定、同盟締結など)に向けた選好収斂を可能にする(メンタル・コーディネーション)。狡猾な政治指導者はこうした論理を直感的に理解しているので、それに乗じて、自らの望むタカ派の政策への支持を調達すべく、敵国の悪意に乗じて国内アクターの憤りを駆りたてようとする(憤りのシステム)。

つまるところ、他国の不当な行為は国内アクターの憤りを生みだすため、それは指導者にとり攻撃的政策への支持を得るための戦略的資源となる。なおこの際、敵国の悪意が現実のものか、エリートによる作為の所産かは関係ないため、指導者はしばしば敵国の悪意を政治的に利用しようとする。

たとえば、中国や韓国はたびたび日本との「歴史問題」を挙げるが、これは同国の指導者らが、「歴史問題」が喚起する日本への憤りを政治的支持に転化できることを直感的に理解しているからである。

なぜ約8倍の潜在力を持つアメリカとの開戦を決断したのか

以上が怒りの報復モデルの概要だが、そこから以下の仮説が導きだされる。

第一に、敵国からの不当な行為は政策決定者の憤りを生みだし、彼・彼女に敵国への攻撃的政策を選好させる(仮説①)。
第二に、政策決定者は敵国の悪意を利用して国内アクターの憤りを駆りたて、攻撃的政策への支持を調達しようとする(仮説②)。
第三に、憤りは国内アクター間で攻撃的政策に向けた選好収斂をもたらし、国家という集団が敵国へ攻撃行動をとることを可能とする(仮説③)。

これら仮説の視点から、「なぜ日本が真珠湾を奇襲したのか」というパズルを再考してみたい。

第二次世界大戦
写真=iStock.com/Xacto
※写真はイメージです

真珠湾奇襲の問題は、リアリストのジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)が述べているように、「なぜ日本は1941年の時点で、約8倍の潜在力を持つアメリカとの開戦を決断したのか」に集約される。

あるいは、なぜ日本は1930年代以降、日中戦争の泥沼にはまり、多くの天然資源を海外に依存し、海軍戦艦の燃料の約8割を対米輸入に依存している状況の中、最大の貿易相手国アメリカに開戦したのか、ともいえる。

以下、このパズルを怒りの報復モデルの視点から解いていくが、結論から述べれば、日本の真珠湾奇襲は決して不可避ではなく、アメリカがハル・ノート提示という日本にとり屈辱的な政策をとらなければ、歴史の道筋は変わっていた可能性があるのである。