新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第12回は「被災工場支援の鉄則」——。
倒壊した家屋の下に、行方不明者がいないか捜索する消防隊員
写真=時事通信フォト
倒壊した家屋の下に、行方不明者がいないか捜索する消防隊員=2007年7月17日、新潟県柏崎市西本町

トヨタの危機管理人が振り返る

危機管理人の朝倉正司もまた災害現場で、復旧を行った体験がある。彼の支援活動デビューは2007年の新潟県中越沖地震だった。

朝倉は会社生活のうち、前半の10数年間は生産技術部。その後は生産調査部にいた。上司は林南八、豊田、友山。そこでまた10数年、働いた。

「危機管理を担当する前に生産調査部にいたのですが、通常の仕事のやり方が危機管理みたいなものでした。今はもう残業もできないけれど、当時は『明日の朝までに生産ラインを直しておけ』という世界でした。豊田も友山も林さんに言われて走り回ってましたね。今、生産調査部は80名ほどいますけれど、当時は20人くらいでしたから、なんでもかんでもやらなければならなかった」

朝倉の話。

――中越沖地震の時は柏崎にあったリケンの工場を復旧してピストンリングを作りました。僕が隊長で行ったのはあれが初めてのことでした。

リケンが作っていたピストンリングは自動車のエンジンにも使われていましたが、トヨタの車にはあまり使われていなかった。また、自動車だけではなく、クボタ、ヤンマーが作る産業機械のエンジンにも使われていました。ですから、リケンの支援は一般企業へ支援する先駆けだったと思います。

トヨタの危機管理としてもあの時は転機でした。復旧の方法は今も昔も生産調査部でやっていたやり方ですよ。作業を平準化して、ムダを省いてラインを引き直す。そうしたら、地震の前よりも生産性が向上するんです。うちとしては当たり前のやり方です。

季節性商品だって生産を平準化できる

トヨタチームが支援に行き、ラインを立ち上げる時、最初にやることは作業の平準化である。

毎日、一定の生産量になることを目指す。ある日はたくさん作って、翌日はちょっとしか作らないといったロット生産、だんご生産では生産性は向上しない。

ただ、平準化するには前述したけれど、部品の仕入れも平準化しなければならない。作業する人間の勤怠管理も計画的にしなくてはならない。さまざまな改善の積み重ねがあって平準化が可能になる。

朝倉は言う。

「季節性のある商品の生産現場を指導した経験が危機の際の復旧作業に非常に役に立った」