朝倉の話。

――トヨタ生産方式の基本は平準化です。車という商材にシーズナリティはないんです。だから、平準化しやすいとも言えます。

かつて、モーターボートの会社に行ったことがあるんです。モーターボートって冬は売れない。そりゃそうですよ。漁船じゃないから冬に乗る人はいない。

豪華なパワーボート
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季節商品を平準化するには稼働日を調整するしかない。夏は毎日、土日もないくらいに働く、その代わり、冬は週4日の稼働にする。そういう考え方はシーズナリティの商品を作っている現場の指導をしたことがなければ勉強できないわけです。

モーターボートだけでなく、オートバイもそうです。バイクも冬は売れないんですよ。売れるのは4月と決まっている。ただ、バイクの場合、北半球は冬ですけれど、南半球は夏でしょう。輸出商品であれば日本が冬の間に南半球に輸出する商品を作る手がある。

逆に夏は売れなくて、冬に売れるのが石油ストーブ。石油ストーブの場合も稼働日を調整し、夏は売れ筋の商品を作りだめする。冬はモデルチェンジした新商品を作る。

危機管理とは「現場へ行き、においを嗅ぐ」

トヨタ生産方式は在庫を一定量にするのが原則ですけれど、シーズナリティのある商品の場合は在庫を持たざるを得ない。しかし、仕事は平準化するんです。

生産調査部で、シーズナリティのある商品の改善をやり、そこで得たものはあまり自動車の生産には役には立たない。しかし、災害支援で行く時、経験のひとつとしてすごく役に立つわけです。平準化するためのアイデアが出てくるわけですから。

ここで話は人工呼吸器に戻る。

「人工呼吸器を輸出すればいい」とアイデアを出せばいくらでも増産ができるわけだ。

「日本で使う量が決まっていますから、特に生産量を増やさなくていいんです」といった商品の生産支援に行った時、トヨタの人間はそこまでやる。

朝倉は話をこうまとめた。

「トヨタの危機管理はとにかく現場へ行け、なんです。新型コロナ危機では現場へ行けないから苦労しましたけれど、それでもリモートで現場の様子を毎日、見ました。だが、においを嗅ぐことができなかった。うちは、見てこい、においを嗅いでこいなんです。そして、見たやつ、においを嗅いだやつの言葉を尊重する。だから、そいつが指示を出す。現場で仕事をした経験がなければ、危機管理はできません」