ホコリやカビはコロナより恐い

日々の現場である特殊清掃現場は過酷を極め、危険と隣り合わせだ。

現場には、体液だけでなく糞便ふんべんが飛び散り、真っ赤な吐血のあとが残っていることもある。そのため、現場では遺体から染み出た体液の取り扱いには特に慎重になる。孤独死者の死因が不明な場は、新型コロナウイルスはもちろん、肝炎など他の感染症のリスクもあり、戦々恐々としながらも日々業務として向き合っているのが現実だ。そのため、上東氏は現場に入る前に、なるべく関係者に死因を尋ねたり、死亡診断書を送付してもらうようにしている。

また、コロナ禍においては、ウイルスが死滅するとされる一週間以上の期間を空けてから清掃に入るように心がけている。

しかし、仕事の上で上東氏が一番恐れるものは実は、コロナなどの感染症ではないというから驚きだ。

上東氏によると、最も恐れるべきものとは、部屋に日常的にあると思われるホコリやカビなどだという。

「もちろん、ウイルスや細菌も感染リスクを視野に入れています。だけど目に見えないホコリやカビのほうが、実はとても怖いんです。肺にカビが入って亡くなった人もいますし、ホコリとカビは全く油断できないですね」

ネズミは全身が病原菌まみれ

孤独死する人の部屋の中は、セルフネグレクト(自己放任)といわれる、ゴミ屋敷だったり、飼いきれないほどのペットを飼っていたりと不衛生な環境で亡くなっていることが圧倒的に多い。そんな中、長時間毎日のように作業していたら、深刻な健康被害が起きてもおかしくはない。

実際に上東氏は過去、円形脱毛症やアレルギー性の皮膚病を発症したことがある。数年前、夜も眠れないほどに全身がかゆくてたまらなくなり、その後、頭に小さなハゲができたのだ。

病院で医師の診察を受けると、ほこりとカビの吸いすぎによるものだと診断されたという。長年、不衛生な環境で働き続けたため、免疫が異常を起こしたのだというのが医師の見立てだった。それからは、半そでなどの作業を改め、全身を覆う服装やマスクの種類にも気を使うなどしたら症状は落ち着き、今では健康には問題はないという。

怖いのはほこりだけではない。不衛生な環境だと、害虫(ゴキブリ、ダニ等)、ネズミの危険もつきまとう。特にこわいのが、ネズミ物件だ。

上東氏が目印にするのは、部屋のあちらこちらにラットサイン(かじった跡、糞尿ふんにょう)だ。ネズミは、E型肝炎、鼠咬症、腎症候性出血熱、レプトスピラ症(ワイル病)ハンタウイルス肺症候群などの病原菌を媒介する。全身が病原菌まみれで、排泄物はいせつぶつや唾液にも菌がいる。そして、尿を垂れ流しながら移動し、部屋中に菌を振りまく。