死臭はいつも「甘いような、脂っぽいような、強烈な臭い」
聞くと、上東氏が近隣住民対策として見積もりの際に目張りしたのだという。たとえ室内で孤独死したとしても、ドアの隙間や換気扇を伝って、臭いは外部に漏れ出てしまう。ブルーシートを張るのは、その臭いを簡易的に防止するためだ。
隣に住む女性に話を聞くことができた。隣人の死臭が外に漏れだしたせいで、家から出入りする際にドアを開け閉めすることすら困難だったという。
上東氏がブルーシートを外すと、ツーンとした臭いがあたりに充満するのがわかる。
これが死臭なのだ。死臭の臭いは、いつも甘いような、脂っぽいような、強烈な臭いである。
ギギッという鉄製のドアの鈍い音とともに、部屋の中に足を踏み入れると、室内は真っ暗で、膝のあたりまで、ゴミらしきものが山積してあるのがわかった。風呂場はかびだらけで、キッチンの上などいたるところに、食べ物のかすや、コンビニの袋、衣類などが、床に無造作に投げ捨てられている。
部屋中のありとあらゆる穴にガムテープで目張り
カーテンを開けると、わずかながら状況がつかめてきた。男性は、部屋中のありとあらゆる穴という穴にガムテープで目張りをしていたのだ。まるで、社会から自分という存在を隔絶し、シャットアウトしているかのようだった。
しかし、長年孤独死現場で取材している私からすると、これはありふれた光景でもある。孤独死現場においては、このように社会から孤立していたことを感じさせるお部屋が多く、その度に、こうなる前に助けを呼べなかったのかと、暗澹たる気持ちになる。
上東氏は、長年の勘で、すぐに男性がリビングで亡くなったことを突き止めた。
確かに、ごみの周りが黒ずんでいる箇所がある。近づくと、臭いが何倍もきつくなった。
上東氏は体液のついた箇所のごみをまず撤去して、薬剤を撒いて、消毒作業を行った。一連の作業は、職人技のように、手際よく淡々と行われていき、あっという間に清掃作業は終わった。
後日、他の部屋のごみの撤去作業にかかるということで、この日の作業は終了となった。作業後、上東氏に話を聞いた。