ネット事業費は「受信料収入の2.5%を上限」のルールを突然撤廃
前田晃伸NHK会長の「NHK改革」と対峙する民放界や監督する総務省には反発と混乱が広がっている。“暴走”ともいわれる「殿」の一挙手一投足に、NHK局内もハラハラドキドキの連続だという。
前田会長は歴代のNHK会長が手をつけてこなかった積年の懸案を矢継ぎ早に持ち出し、「新しいNHKらしさの追求」を掲げて猛進する。その決意は、どこまで実現するだろうか。
その前田会長が豪腕ぶりを見せたのは、まず、NHKのネット事業をめぐってNHKと民放界の間で激しいせめぎ合いが繰り広げられる中、焦点のネット事業費についてこれまでNHKが「受信料収入の2.5%を上限」とするとしてきた現行の基準を撤廃し、「当面、200億円を上限」とする新たなルールの打ち出しだった。
これを受けて、武田良太総務大臣は11月13日に「受け入れるべきではないか」と容認する考えを表明、民放界の反対を承知の上でNHKに軍配を上げた。
すったもんだの末、4月に再確認されたばかりだったが…
受信料収入の割合に基づいて上限を設定したネット事業費の「2.5%ルール」は2015年、ネット事業進出による肥大化批判をかわすため、NHKが自らに課したもので、総務省が認可し、民放界も受け入れてきた経緯がある。さらに、20年4月のネットによる「常時同時配信」のスタートにあたっては、すったもんだの末に再確認されたばかりだった。
ところが9月15日、NHKは前ぶれもなく、「インターネット活用業務実施基準」に明記されているネット事業費の上限を撤廃する旨を一方的に宣言した。
ネット事業の根幹にかかわる改変だけに、民放界は「費用を抑制する指標として自ら定めた上限をわずか1年で撤廃するとは。民業圧迫そのもの」と猛反発、新聞界も「上限を撤廃すれば、放送の補完であるはずのネット事業が際限なく拡大しかねず、到底認められない」と反対意見を表明した。
こうした批判を踏まえ、NHKは11月10日、事業費の上限を総額で提示することとし、「2021年度から3年間は200億円を上限」とする新基準を総務省に申請したのだった。「2.5%ルール」撤廃の発表から武田総務大臣の新基準容認発言まで、わずか2カ月というスピード決着だった。