「ネット事業の本来業務化」はNHKの本音であり悲願

ネット事業費の方針転換を決断したのは、1月に就任したばかりの前田晃伸会長だ。

「公共放送」から「公共メディア」への進化を掲げるNHKにとって、ネット事業の拡大は、その中核といえる。前田会長は、事業費の上限撤廃を発表する直前の9月10日、「現在、ネット事業は放送の補完となっているが、本来業務という位置づけのほうが実態に合っている」と、ネット事業の位置づけを根本的に見直すべきと公言していた。事業費の基準変更は、その具体的一歩といえる。

NHK
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ちなみに、NHKが見込んでいる2021年度のネット事業費約190億円は、受信料収入の約2.9%に当たる。

放送が本業のNHKだが、ネット時代の進展とともにネット事業の本来業務化は、まさに本音であり、悲願でもある。だが、3年前の総務省の有識者会議で、当時の専務理事が「将来的には(放送同様に)本来業務とさせてほしい」と口走ったところ、民放各局から袋だたきにあい、発言を撤回せざるを得なくなるという「事件」があった。

以来、ネット事業の位置づけをめぐる論議はタブー視されてきたが、前田会長は大きく踏み出し、実際に大ナタを振るい、成果を得たのだ。

歴代会長が着手できなかった課題に踏み込んだ辣腕ぶり

前田会長は、みずほフィナンシャルグループの元社長、元会長で75歳。最近のNHK会長は、福地茂雄・アサヒビール元会長、松本正之・JR東海副会長、籾井勝人・元三井物産副社長、上田良一・元三菱商事副社長が相次いで就任、5代続けての経済界出身者となった。

だが、4氏はいずれも1期3年で交代した。畑違いの放送界に落下傘で舞い降りて巨大組織NHKのかじ取りをするのは容易でないことを物語っている。

前任者たちの足跡を踏まえ、前田会長は、就任にあたって「軸のぶれない組織運営を行い、先頭に立って改革に取り組んでいく」と、短期決戦を意識し、トップダウンでNHK改革を断行する覚悟を示した。

その意欲が形になって表れたのが、就任から半年余の8月に公表した次期中期経営計画案(2021~2023年度)だ。

・BS放送とAMラジオのチャンネル数削減
・予算をチャンネル別からジャンル別に組み替え
・3年間で制作費含め630億円程度の支出を削減

いずれも拡大路線からの歴史的転換が列挙された。民放界の肥大化批判や高市早苗総務大臣の意向を汲み取った計画案にすぎないとも指摘されるが、歴代会長が着手できなかった課題に踏み込んだ辣腕ぶりが浮き彫りになった。