キオクシアの「世界2位の座」は決して安泰でない

実際、1980~1990年代に世界の半導体市場を制してきた日本勢は、巨額な積極投資を続けるサムスン電子に代表される韓国勢の追い上げによって主役の座を完全に奪われた。その結果、いまや日本勢で国際競争力を維持しているのはキオクシアだけとなり、かつての「日の丸半導体」は見る影もない。

日立製作所、NEC、富士通といった名だたる日本勢が半導体市場から消え去った事実は、機動的な投資判断を誤れば市場退場を迫られるという半導体産業の定説を物語る。

そして今、キオクシアの世界2位の座も決して安泰でない。

フラッシュメモリーで断トツの35.9%のトップシェアを握るサムスン電子は、韓国はもとより中国での半導体事業で追加の巨額投資を続ける。昨年末には中国の西安工場(陝西省西安市)に80億ドル(約8400億円)を投資すると発表し、シェア19%のキオクシアの引き離しにかかる。

2016年、ラスベガスで行われたCES
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習近平政権は半導体産業を「戦略的な重点分野」に位置付け

一方、中国勢の存在も無視できない。先端技術で世界の覇権取りを狙う習近平政権は、2025年に「世界の製造強国の仲間入り」を目指す産業政策「製造業2025」で、半導体産業を戦略的な重点分野に位置付けた。また、トランプ米政権との間で激化する一方の貿易戦争を背景に、習政権は海外からの制裁に影響されない自国内でのサプライチェーン(供給網)の構築を急ぐ。

このため、紫光集団傘下の長江存偖科技(長江メモリー・テクノロジーズ=YMTC)といった中国勢は、政府による金融支援などの後押しもあり、半導体市場で韓国勢など激しく追い上げる。

さらに、キオクシアが新工場建設を発表した直前には、米インテルが韓国半導体大手のSKハイニックスに半導体メモリー事業を約90億ドルで売却することで合意した。買収完了は2025年を予定しており、単純合計するとSKハイニックスのシェアは9.9%から一挙に19.4%に上昇し、キオクシアをわずかに上回り2位に浮上する。まさにキオクシアを取り巻く環境はここにきてにわかに大きく動き出した。