SKハイニックスにキオクシアを飲み込まれる可能性も

しかし、SKハイニックスの存在は、キオクシアにとってはさらに厄介だ。

東芝は2017年4月に半導体事業を分社化し、新たに東芝メモリを発足し、翌2018年6月には同社を米投資ファンドの米ペインキャピタルやSKハイニックスなどに売却した。東芝も4割を再出資し、東芝メモリは「日米韓連合」で再出発した。

その際、SKハイニックスは2019年3月に社名変更したキオクシアの新株予約権付社債(転換社債)を保有し、キオクシアHDの株式上場後は約15%の株式を取得する計画だった。

こうした経緯から、SKハイニックスがキオクシアをのみ込む可能性は否定できない。

現実的には合意がない限り2028年まではSKハイニックスがキオクシアの15%を超える株式は取得できないことになっているものの、SKハイニックスは11月3日の決算発表の場でその可能性を完全には打ち消さなかった。

SKハイニックスは半導体メモリーの専業メーカーであり、インテルの半導体メモリー事業を買収後に世界市場での覇権取りにキオクシアの取り込みを虎視眈々と狙っていることは想像に難くない。その意味で、キオクシアとしてはこの“猶予期間”に、今回の巨額投資で需要を取り込み、脆弱な財務基盤の強化につなげたい意向だ。

今回の投資は「身の丈知らず」の大きな賭け

キオクシアはこの巨額投資を営業キャッシュフローの範囲内で賄うとしているものの、年4000億~5000億円台で推移してきたキャッシュフローは最終赤字に陥った2020年3月期は約1600億円に沈み、ある意味“身の丈知らず”にも見える。

一方で、生き残りへの大きな賭けに打って出たとも映る。そこには、事業の持続には巨額投資が欠かせないという半導体メーカーが抱える呪縛から抜け出せない姿がにじみ出る。

確かに、キオクシアHDの上場延期は資金調達面で誤算だったに違いない。ただ、10月に予定していた上場で得るはずだった新株発行による資金調達額は、約603億~754億円にすぎず、四日市工場への新規投資額には遠く及ばない。

ただ、今回の新工場建設は協業先である米ウエスタンデジタル(WD)との共同で実施するため、投資額は折半となる。今回の投資についてWDは次世代技術の開発で将来の需要を取り込む協力関係の強化を表明しており、共同で生き残りに懸ける意向を示している。

しかし、市況に大きく左右される半導体事業にとって投資負担は、大きなリスクである。それだけに、キオクシアにとってはこの投資は大きな岐路になる。