経済危機と財政改革をいかにして克服するか。わたしたちは難しい舵取りを迫られている。しかし、歴史をひもとけば、かつて同じように困難な状況を見事に乗り越え、攻めに転じた指導者たちがいた。
企業の倒産や業務縮小、銀行の貸し渋り、進むデフレ、世界的不況……。暗いニュースが相次ぐなかで、企業経営も厳しい時代を迎えている。多くの企業ではコスト削減で不況を乗り切ろうと必死になっている。「派遣切り」という社会現象まで生まれた。
しかし、再建のために必要なのは目先のコスト削減だけではない。人件費のカットは一時的に効果を生むが、それだけで企業が長期的に続くわけではない。企業再建に必要なのは、再建のためのポリシー(理念)を持つことである。何のために企業を再建するのか、その理念がなければ再建する意味はない。理念を再認識して目的化し、マンパワーを最大限に活かしていかなければ、企業再建は難しいといえるだろう。
言い古された言葉であるが、企業の再建には「お客様のため」という理念と真摯な気持ちがなければならない。なぜかといえば、私たちはお客様から給料をもらっているからである。公務員であれば国民の税金から給料をもらっている。その「意識」を持つことである。これは究極的にいえば、ヒューマニズム(人間愛)を持つことでもある。ヒューマニズムを根底に抱きつつ、再建作業をしていくことでしだいに方向性が見えてくる。行き着く先はもちろん「お客様のため」である。お客様のために企業は健全な経営に邁進し、社会的責任を果たしていくべきなのである。
事業縮小ではなく拡大再生産を
こうした前提のもとで考えれば、企業の再建とは決して倹約や事業縮小ではなく、拡大再生産することでなければならないとわかってくる。拡大再生産するためには社員が旧態依然の意識のままで再建に着手しても効果は上がらない。企業が今持っている資源に効率的な付加価値を加え、適切な市場に向けて打って出ることが大事である。未知の分野で新事業を始めるのではなく、従来あるものに工夫をして付加価値をつけるのだ。そのためにはマンパワーも必要である。今いるマンパワーをどのように活かし、育てていくかが再建のために重要になってくる。
このような拡大再生産に取り組んだ歴史上の人物として第九代米沢藩主の上杉鷹山や、政治家の高橋是清などが挙げられる。彼らに対しては一般的に倹約家としてのイメージが強いかもしれないが、実際にはそれだけではなかった。倹約にも努めた半面、拡大再生産にエネルギーを注いだ名再建請負人なのであった。