(1)最もリスクの高い知識を組織のものにする

企業はまず、情報や経験の喪失によって最もリスクにさらされる箇所を突き止める必要がある。その一環として、最も重要な知識を持っている社員を特定できるパフォーマンス・マネジメントの手法やキャリア開発の手法を構築することも必要だ。

たとえば、デイビッド・W・デロングとトマス・O・マンは、アクセンチュアの「アウトルック・ジャーナル」(2003年1月号)の記事「Stemming the Brain Drain(頭脳流出を食い止める)」で、次のように述べている。

 「9.11後に航空輸送量が大幅に落ち込んだとき」デルタ航空は競争力を維持するため人員を削減した。「だから、会社全体で1万1000人の社員が早期引退・退職のオファーに応じることにしたとき、デルタには、バックアップ要員や交代要員がいない職種に就いている社員を特定し……それから彼らが退職する前にその知識をつかみとる時間が2カ月弱しかなかった。

全社のスーパーバイザーがデルタの学習サービス部門のチームと協力して、1万1000人のリストからその人物の退職が『きわめて重要な職種の喪失』となるベテラン社員を絞り込んだ。これらの傑出したパフォーマーを特定すると、彼らと面談して会社での彼らの役割について話を聞いた。このようにして、デルタはきわめて短期間にできるかぎり多くの重要な知識を会社に残したのである」。

(2)焦点を絞ったキャリア開発、向上プログラムを

キャリア開発プログラムは、社員が将来の役割に備えて必要な知識を蓄積する手助けをするものだ。たとえばワイスは、先年、新薬発見のペースが4倍になったとき、研究開発部門の6000人の社員のうち、150人の臨床研究チーム・リーダーがミッション・クリティカルな(消失すると甚大な影響がある)社員になっていることに気づいた。

これらのますます重要になるマネジャーを会社に引き留め、彼らの能力をさらに開発するために、同社は各キャリア・レベルでどのようなコンピタンシーが求められるか──また、どの程度の熟達度が求められるか──を明示した独自のキャリア向上モデルを開発した。そして、すべての臨床研究チーム・リーダーをこれらのコンピタンシーに照らして評価し、向上と成長の機会を与えるために個々人の能力開発プランを作成した。また、彼らの知識をさらに高めるツールを開発するとともに、継続的な学習とベスト・プラクティスの共有を可能にするために協働の場を設けた。

それに加えて、組織が持つ臨床試験マネジメントの専門知識が向上し続けるよう、臨床研究チーム・リーダーを「ケイパビリティ(能力)チーム」なるものに参加させ、プロセス変更や訓練ニーズの問題に取り組ませている。また、とくに臨床試験マネジメントに焦点を当てた新設の中央組織にも彼らを参加させている。