仙谷由人官房長官に「政治的な介入だ」との非難が集中
2010年9月7日、尖閣諸島沖合で中国漁船が故意に海上保安庁巡視船に衝突して船長が逮捕され、沖縄地方検察庁に身柄が送られました。中国側は即時釈放を強く要求。9月24日に処分保留のまま釈放され、船長はチャーター機で直ちに帰国しました。
海上保安官が動画サイトに投稿した衝突時の映像も含め、当時の様子をご記憶の方は多いでしょう。この経緯について国民の間に大変な疑念が広がり、国連総会のために訪米中の菅直人首相、前原誠司外相の「留守」を守っていた仙谷由人官房長官(いずれも当時、以下同)に対し「検察に政治的に介入して釈放させた」との非難が集中。釈放前日の23日に外務省の説明を受けた沖縄地方検察庁が24日に「外交上の配慮」を釈放の理由としたことも、こうした非難に根拠を与えました。
それからちょうど10年が過ぎた今年9月、前原氏が複数のメディアに対し、「中国人船長の釈放は菅直人首相の指示によるもの」「菅直人首相は、11月に横浜市で開催予定のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に中国の胡錦涛主席(当時)が欠席することを恐れた」などと発言し、波紋が広がっています。
外務大臣が官房長官に「首相の意向を伝える」とはあり得ない
事件当初に国交大臣、9月17日の内閣改造を経て外務大臣として事態に関わった前原氏によれば、翌18日、国連総会のための訪米に向けた勉強会で前原外相ら外務省幹部が首相官邸に出向いた時、菅首相が前原外相に「中国の船長を返せ」「俺のAPECを台無しにするのか」と述べ、前原氏はこの“首相の意向”を仙谷氏に伝達。その結果、沖縄地検は中国人船長を処分保留で釈放したというのです。私はインタビュー記事を読んで、ビックリしました。
私自身は民主党政権時代を含め、長く国政の裏方を秘書稼業で歩いてきたのですが、外務大臣が総理の女房役たる官房長官に“首相の意向を伝える”なんて、聞いたことがありません。
首相が官房長官に政治的な指示をするなら、直接するはずです。この案件は本来、複数の大臣(法務、国交、外務)が関わるもの。官房長官が調整の労をとるのが順当で、いち所掌大臣が全体を統括すべき官房長官に首相の意向や指示を伝えるために間に入るのは、指揮系統上にも異常をきたします。