私自身が仙谷長官の命を受けて「拘留期間延長」を交渉していた

そして、もうひとつ私が前原氏の発言に疑問を持たざるを得ない事情があります。それは、私自身が仙谷官房長官の指示を受け、2010年9月19日から23日にかけて北京市で中国側と接触し、地検に送致された中国人船長について日本における法的手続きのため3週間ほどの拘留と取り調べを黙認してもらうよう交渉していたからです。

もし、9月18日の時点で首相の指示通り「釈放」なら、仙谷長官がわざわざ私に北京で中国側に「拘留期間延長」を交渉させる必要などないはずです。

当時の民主党政権内で、私は変わり種でした。長く日本共産党国会議員団で秘書を務め、04年11月に党を除籍。共産党の筆坂秀世元参議院議員(常任幹部会委員・政策委員長)の公設秘書時代に、中国共産党中央対外連絡部の人物や外交官と知古となり、民主党政権発足後に同党衆議院議員政策秘書となってからは、その人脈を生かして予備的な交渉事にも従事しました。

中国側「密約の取り決めが守られず、当惑した」

衝突事件の際は、旧知の中国外交官の親族の結婚祝いへの出席にかこつけて相手側に交渉を持ち掛け、数日間、北京市内のホテルで、在北京日本大使館の館員立ち会いのもと、人民解放軍総参謀部要員との交渉に臨んだのです。

その時面食らったのは、「なんで日本側は従来の取り決めを破って、中国側船長を連行し拘禁したのか?」と問われたこと。話し合いの場とは別の食事の席で詳しく説明してもらったのですが、中国側の言い分はこうでした。

「97年、わが国と日本政府は漁業協定を締結する際、釣魚台(尖閣諸島)周辺でお互いに相手国の人員を拘束した際は、48時間以内に相手国側、つまり拘束した人員の所属国の公的執行機関に身柄を引き渡すことになっている。その取り決めが守られず、当惑した」

別の席でこの問題を旧知の中国外交官に尋ねたところ、密約は相互に尖閣諸島周辺での執行権を黙認し合うもので、中国にとっては建前上、自国民に知らせるわけにはいかぬために密約となったとのことでした。一種の「共同管轄協定」ですね。

尖閣諸島をめぐって対峙する日本と中国、太平洋にはアメリカ
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しかしながら、違法操業の疑いについて停船命令を受けながら、漁船で巡視船に体当たりをかけるという重大な公務執行妨害・器物損壊(海上では人命にも関わる)を犯した容疑者を「48時間以内に相手国引き渡し(事実上、釈放)」というのは日本側公的執行機関、さらに国民にとって納得いくものであるはずがありません。