帰国後は企画部に配属されたが、初めて体験するスタッフ部門は営業部と異なり内向きでドロドロの世界であった。トップ層は「会社は永遠に存続する」と思いこみ、私利私欲の観点から経営判断することが多かった。幹部は保身と出世のため、ワンマン経営者の寵愛を得るのに汲々としていた。全身に膿がたまっているような状態だった。このままではいつしか自分もそれに染まってしまうかもしれないと悩みに悩み、カネボウを退社したのが55歳のときだった。

外資系企業の日本法人トップにヘッドハンティングされ、新しい経営の世界を見た。アカウンタビリティ、コンプライアンス、トランスペアランシー(透明性)、オープンネス、コミットメントを初めて肌で感じた。そこで初めて有望な若手エグゼクティブがコーチングを受けているのを知った。カネボウのダメ経営者がエグゼクティブ・コーチングを受けていれば、あのように無様に倒産することもなかったろうと心底から残念に思った。

5年後、その外資系企業が敵対的買収に遭い、フランスの会社になった。イギリス、アメリカ、フランスのトップ経営者のしたたかな生きざまを目の当たりにした。8年後コンサルタントとして独立したが、どんなによい提案をしても、実行するのは社長および経営者層であることを痛感させられた。「社長がダメなら会社は衰退していく」。カネボウと同じような会社がこんなにも存在するのかと驚きもした。そして経営に与える影響力の小さいコンサルタントではなく、コーチングを志すようになった。

資源を持たない日本が世界と伍して闘っていくためには、「人」という資源を最大限に活かすことが大事である。そのためには世界一流の経営のプロが育ち、企業や組織を活性化し、人材を育てていくことに尽きると考えている。私の使命はコーチングを通じて人材を育てること。私の夢は私のコーチしたトップ層が多国籍企業の本社のトップになることである。