「自分をどう成長させてくれるか」。そんな期待を持って入社してくる社員に企業は何ができるか。個人の成長と企業の成長を両立できるキャリア開発はありえるのか。世界8万人の社員を対象としたキャリア開発システムにそのヒントがある。
キャリア開発のよし悪しで企業が選別される時代に
顧客が商品・サービスを選ぶ「顧客本位」は今やビジネス社会の常識であるが、働く人の世界ではいかに集団を管理するかという「会社本位」の思想がいまだに幅を利かせている。しかし、優秀な人材の確保と定着がビジネスの帰趨を決める今日、働く人に選ばれる「労働者本位」の仕組みに変えていくことが重要な課題になっている。
その1つがキャリア開発である。企業固有の特殊技能だけではなく、国内やグローバル規模で通用する能力を身につけたいというキャリア志向が近年高まっている。もちろん就職した企業に一生勤めたいという安定志向の学生も少なくないが、例えば中央省庁やメガバンクを蹴ってまで外資系金融機関やコンサルティング会社を目指すキャリア志向の東大生が増えているのも事実だ。優秀な人材を採用したいのであれば、キャリア開発の仕組みをきちんと用意しているかどうかによって企業が選別される時代に入っている。
とりわけ年間の離職率10%前後と流動性が高いIT業界にとっては人材の確保と定着は至上命題となっている。目下、その課題にグローバル規模で取り組んでいるのがマイクロソフトだ。同社は2006年から「myMicrosoft」と呼ぶ五つのカテゴリーからなる人事改革に全社的に取り組んでいるが、その1つがキャリア開発だ。同社は新卒を含めて毎年400人強を採用しているが、キャリア開発に力を入れるには明確な理由が存在する。
「新卒や転職者は、マイクロソフトで働くことで自分が成長できる、キャリアを伸ばせると思って入ってくる人がほとんどだ。会社が自分の成長のために何を考えてくれるかという期待は大きい。逆にその期待に応えられなければ、ほかの会社に行ったほうが成長できると判断して離れていくだろうし、優秀な人ほど外部に引っ張られてしまう。会社にとっても成長する機会を数多く提供することで、本人が長期的に伸びていけばチームのパフォーマンスも上がるし、リターンも非常に大きい」(四方ゆかり・執行役人事本部長)
一口にキャリア開発といってもその仕組みは個々の企業で異なる。5年ないし10年単位で“キャリアの棚卸し”と称する外部講師による研修のみでお茶を濁している企業もあれば、必ずしも仕事と直結しない資格取得や趣味の領域に属するスクールの受講を奨励する、単に福利厚生の延長としか思えないものをキャリア開発支援と呼ぶ企業もある。しかし、本来のキャリア開発は、成長したいと願う個人と事業の永続的発展を狙う会社の異なるベクトルを一致させることでしか実現できない。