〈育児と両立〉という言葉は女性にしか使われない

「でもじっさいはちがいましたよね。たいへんだからがんばれよって、言われただけ。女が男と一緒に働けるわけないよね? 男と一緒って言うのだったら、もっとがむしゃらにやってくれなくっちゃ困るよー、え? なに? 結婚するつもり? ……そんな声も聞こえたような」

じきにバブルがはじけ、夢もはじけた。しかしキントウホウ世代の女性たちが夢破れるのには、もう少し時間がかかってしまう。もやもやしながら、それがなんなのかわからないうちに、よのなかは非正規雇用の時代へと入っていく。子を産み育てたい働く女性には、さらなるムリがかかることになった。

「〈育児と両立〉って言葉がどうして男の人には使われないんだろう? と思うんですよ。これだけイクメンとかって注目されても、〈育児と両立〉という言葉は女性にしか使われないままです。女性の枕詞になっている。女性は育児を〈仕事と両立〉しなければならなくて、なんで男はそうではないのだろう? 母性だけに頼って。たしかに母性はあるとは思いますけど。本来、男の人だって〈育児と両立〉して働くはずだって。なんかすごくそれは感じますね。だからどうしたらいいのか、はわからないのだけれど」

同じ会社でずっと働き続けている人ってほとんどいない

バブルとセットで登場したキントウホウ。拡大する経済、増える仕事、女性もおおいに働いて! という国の方針。

「生き方を選ぼうと思えば選べたでしょ? と言われるかもしれないけれど、でも現実的には、選べたかっていうとまだまだ、でした。子育てにしても三歳神話があったり、保育園がなかったり。自分から動いていかなければならなかったけれど、難しかったのよ……と、自分をなぐさめながらきている人って、けっこういるんじゃないかと思うんですよね」

気づけば50代に突入し、会社勤めであれば定年までおよそ10年、長く見積もっても15年、というところまで、きた。

「働けるのもあと10年、15年……? これからどうやって働くかね? 私いつまで働けるんだろう? そうみんな考えると思うんですけど……50前後の私の友達だと、同じ会社でずっと働き続けている人ってほとんどいない。なんていうか、あまり道がなかったんですかね……と、過去を否定したくないのに、否定してしまう。そういうところが、私たちの世代にはあると思うのです」

ユキさんの問いは、あのグルグルな日々を、ふたたび私に突きつける。