公衆衛生当局や政府、企業がもっときめ細かい良質なデータが入手できるようになれば、意思決定の精度も高まる。それほどデータは強力なツールになる。私たちが抱えているさまざまな問題を解決し、未来を切り開いていくために、データをどのように生かしていけばいいのか。まさに人類の叡智が試されているのだ。

謙虚さで死んだ者はいない

テクノロジーの世界では、絶えずイノベーションを続けていかなければ生き残れない。10年にわたって活躍した企業でも、次の10年には新顔に取って代わられてしまうような業界なのだ。

ブラッド・スミス『TOOLs and WEAPONs』(プレジデント社)
ブラッド・スミス『TOOLs and WEAPONs』(プレジデント社)

興味深いデータがある。「世界の企業の時価総額ランキング」を見ると、1996年から2020年までの各時代のランキングトップ10すべてに名を連ねているのは、マイクロソフトだけなのだ。しかもそれが栄枯盛衰の激しいテクノロジー企業というのも、注目に値する。

各ランキングの発表時にマイクロソフトに在籍してきた身としては、時代ごとに当社がどれほど変化したかを考えると実に感慨深い。

いや、常に自分自身を貪欲に変えていかなければ、成果を上げ続けることは不可能なのだ。そのためには、自分を取り巻く世界の変化を絶えず把握し、そこに適応していかなければならない。

だが、もう正解にたどり着いたと思い込み、ここまで来れば十分と慢心した瞬間から衰退が始まる。これは、テクノロジーの世界では非常に重要な教訓だ。マイクロソフトでは、この教訓を日々心に留めて活動している。

私が好きな言葉に「謙虚さで死んだ者はいない」というものがある。これは、パンデミックの前だろうが後だろうが、業界や国境を超えて誰にとっても通じる真理ではないか。成功すればするほど、謙虚さが必要になるのだ。

「S&P500」という株価指数がアメリカにあるが、ここの500社全体の1%に相当するたった上位5社の企業で市場価値全体の25%を占めている。明らかに不自然で、異常な状況と捉えるべきだ。マイクロソフトもこの5社に含まれるのだが、こんな状況はいつまでも続かないと肝に銘じるべきだ。特に業績が好調なときほど、そう自分に言い聞かせる謙虚な姿勢が必要である。

成功してつけ上がり、運の良さに助けられたことも忘れて、今の状況が永遠に続くかのように思い込んでしまうと、いつかつまずく。歴史を見れば、そんな話はいくらでもある。

マイクロソフトもこれまでの成果は誇りに思っていいし、そうあってしかるべきだが、個人も企業も成功の陰には常に運もあったことを忘れてはいけない。もっとも、成功すれば自らの才能のおかげ、失敗すれば運が悪かったからと考えるのは、悲しいかな人間のさがである。そこを乗り越えるためにも謙虚な姿勢が大切なのだ。