また、世界の民主主義国にとって、根底には重大な問題がある。経済的格差の広がりだ。多くの国が内向きになり、隣国と距離を置く動きが見られる。民主主義の繁栄は、経済が繁栄していればこそだ。広範な経済成長があって、その果実を多くの人々が分け合えるほどに生産性が向上すれば、民主主義も強くなる。逆に、格差の拡大は民主主義を揺るがすことになる。テクノロジー企業としては、生産性向上を後押しし、中小の企業にも多くの機会がもたらされるように格差解消に努めたい。
その意味で、世界は大きな岐路に立たされている。これまでも重大な岐路はあった。例えば、旧ソ連が崩壊し、何十年も続いた冷戦に突然終止符が打たれ、新たな時代の到来に胸を躍らせるような明るい岐路もあった。
だが今、私たちが立たされている岐路ははるかに過酷だ。1930年代や50年代も、どのような世界を構築したいのか自ら答えを出さねばならなかったし、人類は実際にそのような困難に挑んできた。50年代の選択の結果、後の90年代に輝かしい時代を迎えることができた。一方、30年代は選択の誤りを繰り返し、続く40年代は世界が第二次世界大戦という戦禍に巻き込まれた。
世界がコロナ禍に直面している今、デジタル技術を駆使して、どのように大きな繁栄と成功へ導くのか。そしてもっと健全な民主主義へとつなげていくのか。同時に、選択に失敗した場合のリスクもしっかりと覚悟しておくべきだ。
在宅勤務と引きこもりは違う
危機の真っ只中で、将来を見通し、危機が過ぎ去った後の時代を見極めることは簡単ではない。台風が襲いかかっている最中に、ビーチに遊びに行こうなどとは考えないものだ。しかし、ひとたび台風一過となれば、さあどうしようかと考え始める。
在宅勤務と引きこもりは違う。むしろ、在宅で仕事をする場合に生産性が上がるような未来を築きたいのだ。家で仕事をするもよし、出かけていくもよし。私たちの期待する未来は、そういう自由なものではないか。
コロナ後の時代は、働く場所の自由度が大きく高まる。この自由度ゆえに、新たなチャンスに恵まれる人々が多く出現する。仕事と生活の両立をめざしている人々、とりわけ子育てしながらキャリアを形成したい人々にとっては、大きなメリットになる。
ただし、リモートワーク一色になって人々を引き離すような未来になるわけではない。人々が集い、ともに過ごす場も必要だ。一緒に何かを考えたり、働いたりする機会は欠かせない。