ビル・ゲイツ「プライバシーは重要な課題だ」

1990年代後期、マイクロソフトが米国政府から独禁法違反の訴訟を起こされた際、わたしが最初に助言を求めたのがブラッド・スミスだった。

マイクロソフト共同創業者。ビル・ゲイツ氏
マイクロソフト共同創業者。ビル・ゲイツ氏(AFLO=写真)

人間としての魅力にあふれ、法律専門家としての判断にも信頼が置ける人物で、その後は企業文化や戦略の変革の旗振り役も担ってもらった。政府やパートナー、競合他社も含め、さまざまな方面との人脈づくりにもっと時間とエネルギーを費やすべきだと社内に訴えて回ったのも彼だ。

自社だけが儲かればいいという偏狭な考え方ではなく、問題に対して傍観者を決め込むことはマイクロソフトにとっても業界全体にとっても損失になるというのが彼の信条だ。

ブラッドの著書『TOOLs and WEAPONs』にあるように、テクノロジー企業は、世界のリーダーと真正面から深く関わり合うべきとブラッドは説く。世界中の政府が多くのテクノロジー企業に対して厳しい視線を向けているだけに、今の時代ほどブラッドが描くビジョンがしっくりくる時代はない。

たとえば顔認識技術については、ブラッドは、そのリスクを踏まえ、業界の自主規制と政府の規制を早くから訴え、常に先頭に立って行動している。このほか、著書ではプライバシー、サイバーセキュリティ、IT労働者の多様性、米中関係など幅広いテーマに切り込んでいる。

なかでも特に重要なテーマを挙げるとすれば、プライバシーである。膨大な量のデータの収集能力は諸刃の剣だ。著書では、プライバシーに関して、ナチスの情報収集を引き合いに出すことは想像に難くなかったが、ブラッドは米英戦争や刑事共助条約まで登場させている。これぞ、多方面に関心を持ち、深く斬り込む才能に恵まれたブラッドの真骨頂である。彼の経験と知性を踏まえれば、今、テクノロジー業界が抱えている問題を考える指南役としてこれ以上の適任者はいないだろう。

※ビル・ゲイツ氏の原稿は『TOOLs and WEAPONs』の序文を再編集した。

(取材・翻訳・構成=斎藤栄一郎 写真=AFLO)
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