現在、世界で顔認識の保護措置を講じた法律を整備しているのは、マイクロソフトの本拠地でもある米国ワシントン州だけである。せめて5年後には、日本などの国々でもこうした法律が整っていてほしい。法整備が遅れれば、せっかく機が熟したイノベーションのチャンスがしぼんでしまうのではないかと危惧している。

テクノロジー業界各社は、コロナ禍を受けて、まだまだ取り組むべき課題があると目を覚ましたのではないか。ほんの3年前、サイバー攻撃やフェイクニュースの問題がメディアを賑わせたが、テクノロジー企業は、その事実自体や責任を問う声に当惑したり、否定したりするありさまだった。20年はテクノロジー企業が新たな措置を講じたといった見出しが毎週のように紙面に躍るようになった。私は正しい方向に進んでいると確信している。

取り組みのペースにはまだ改善の余地があるが、問題解決の第一歩は問題の存在を認識することにある。そして時間をかけて問題点を理解する必要がある。この分野では先ほど述べたとおり実際に成果が出始めていて、これを足がかりに、さらに積極的な対策を講じていくことになるはずだ。

ブロードバンドは21世紀の電力になる

今回のコロナ禍で、企業にせよ、個人にせよ、明らかに格差が広がってしまった。だが皮肉にも、このような格差にスポットライトが当たったからこそ、私たちはこの問題を深刻に受け止め、はっきりと理解できるようになったことも事実だ。

17年から私は世界各地で、ブロードバンドは“21世紀の電力”だと言い続けてきた。なかなか理解してもらえなかったが、20年になったとたん、「ブロードバンドは21世紀の電力だ」とみんなが言い出していた。

これからブロードバンドの普及に向けた取り組みは加速する。著書『TOOLs and WEAPONs』でも紹介したが、人類は過去にも電話網や電力網の普及をめぐり、こうした普及格差の壁を乗り越えてきた。今度はブロードバンドという壁を乗り越える番だ。

戦争があると、技術は格段に進歩する。新型コロナウイルスとの闘いもある種の戦争であって、これを機に技術の大幅な進歩はありうる。だが、どれほどの進歩につながるのか判断するのは時期尚早だ。ただ、デジタル技術の活用という意味では永続的に定着すると見ている。また、デジタル技術の進歩が加速することも確実だろう。

データ利用の広がりも一気に加速し、永続的な変化につながるだろう。そもそも、私たちは一日の始まりにデータを確認している。以前なら天気予報を見て、気温や雨・雪の可能性を確かめていた。最近は多種多様なデータを見て行動を決めている。例えば新規感染者数のデータに毎日着目して、「やはり今日は外食はやめておくか」などと判断している。これほどデータは私たちの生活行動に影響を与えている。