習近平がデジタル人民元の実現を急ぐワケ

それよりもインパクトが大きいのが、中国政府が法定通貨のデジタル化(デジタル人民元)実現への取り組みを急速に進めていることだ。その目的は、人民元の利用を通貨当局が入念にモニターして通貨価値の安定を目指すことや、人民元の流通範囲を拡大することにある。

近年、中国では経済成長が限界を迎えたとの懸念から、多くの人が海外に資産を持ち出し、外貨での保有を目指した。衣類の下に隠されたりすると、紙幣の持ち出しを摘発することは難しい。本土からの流出が続くと、どうしても人民元には下落圧力がかかる。それは、経済成長を実現することによって求心力を維持してきた共産党指導部の威信にかかわる問題だ。

そうした展開を防ぐために、共産党政権は法定通貨をデジタル化し、資金フローの監視とコントロールの強化を目指している。それに加えて、習近平国家主席は自国を中心とする広域経済圏構想である「一帯一路(21世紀のシルクロード経済圏構想)」を重視している。

急速に発展する深圳
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その狙いは、人民元で決済が行われる地理的範囲を拡大し、為替レートが経済に与える負の影響を減らすことだ。そう考えると、デジタル人民元の実現は重要だ。

深圳では5万人に200人民元を配布

デジタル人民元の実現を目指す中国の取り組みのスピードは圧倒的だ。10月、広東省深圳(シンセン)市にて中国人民銀行はデジタル人民元の実証実験を開始した。人民銀行は、抽選で選ばれた5万人の市民に、一人当たり200人民元(約3100円)を配布する。

デジタル人民元を受け取った市民は、スマートフォンで専用のアプリをダウンロードし、QRコードを使って支払いを行う。さらに、人民銀行の易綱(イー・ガーン)総裁は、2022年に開催予定の北京冬季五輪までにデジタル人民元を発行する方針であると表明している。

その一方で、主要先進国の取り組みは中国に遅れている。2021年に日銀、ECB(欧州中央銀行)は実証実験を開始する方針であり、米国のFRB(連邦準備理事会)はその実験に合流するとみられる。その姿勢で主要先進国が人民元のデジタル化にどう対応できるか、先行きは楽観できない。