世界の基軸通貨「ドル」の覇権が揺らぐ

現在、中国人民銀行(中国の中央銀行)が急速に人民元改革を進めている。その取り組みは大きく2つある。1つは、外貨準備を構成する資産の多様化(ポートフォリオの分散)だ。その一環として、人民銀行は米国債に加えて、わが国の国債などを購入している。

束になって並べられた人民元紙幣(中国・上海)=2018年8月8日
写真=AFP/時事通信フォト
束になって並べられた人民元紙幣(中国・上海)=2018年8月8日

もう1つは人民元のデジタル化だ。それによって、共産党政権は、資金フローの厳格な管理による通貨価値の安定と、人民元の流通範囲の拡大を目指している。近年、世界の中央銀行が、法定通貨のデジタル化(Central Bank Digital Currency、CBDC)への取り組みを進めているが、中国人民銀行のデジタル通貨開発には、主要先進国の中央銀行を上回る規模感とスピード感がある。

人民元の国際化や今後の国際通貨体制に与える影響などを考えると、中国による日本国債取得よりも、人民元デジタル化のインパクトが大きい。長期的な目線で考えると、人民元のデジタル化が進み、それを用いる国が増えた場合、国際通貨体制は変化する可能性がある。

今すぐではないにせよ、デジタル化された人民元の流通範囲が拡大するにつれて、世界の基軸通貨としての米ドル(ドル)の覇権が揺らぐ展開は排除できない。

なぜ、中国マネーが日本国債に流入しているのか

中国人民銀行が人民元改革に取り組む背景には、共産党政権が人民元の為替レートの安定を目指していることがある。中国にとって重要なことは、米国の意向に影響されずに、自国の社会・経済状況に合うよう為替政策を運営する国際的な立場を確立することだ。

そこには、わが国の教訓があるだろう。わが国は米国の要請に応じた結果、円高圧力に直面した。1985年9月22日の「プラザ合意」はその代表例だ。円高によって海外でわが国企業が獲得した経済的な利得は目減りした。

1990年代初頭の“資産バブル”崩壊以降、長期の経済停滞に陥ったわが国にとって、円高の負の影響は大きかった。一党独裁体制を敷き、国家資本主義体制の強化に取り組む中国の共産党政権にとって、そうした状況は容認できない。

中国人民銀行は人民元の安定性を高めるための1つの方策として、外貨準備を構成する資産の分散を進めた。それが、中国マネーの日本国債への流入の一因だろう。外貨準備残高の安定は通貨の信認に重要な役割を果たす。

外貨準備とは、通貨当局(各国の財務省、中央銀行)が為替相場への介入を行う、あるいは外貨建て債務の返済が困難になった場合に用いる準備資産をいう。代表的な外貨準備資産は、世界の基軸通貨であるドルだ。ただ、ドルに準備資産が偏るとドルと各国通貨の為替レートの変化が、外貨準備残高に無視できない影響を与えやすくなる。

そのリスクを分散するために、中国は日本国債や金、ユーロ建て資産であるドイツ国債などを外貨準備に加えたといわれている。2019年に中国国家外貨管理局が初めて公表した外貨準備の通貨構成比データを見ると、ドルの比率は1995年の79.0%から2014年の58.0%まで低下した。

また、中国以外の海外投資家もわが国の日本国債を売買している。中国マネーの流入が、日本国債が買い時にあることを意味するとは言えない。