コロナ禍で多くの介護施設は家族の面会を制限している。施設現場や家族を取材した介護アドバイザーの鳥居りんこ氏は「ガラス窓越しに短時間の面会となることが多く、触れ合いの時間が減っています。その影響で、認知症が進んでしまうケースもあります」という——。
マスクを着用し、窓から外を見ている年配女性
写真=iStock.com/xijian
※写真はイメージです

「お母様がグッタリされているので、救急車で緊急搬送します」

6月のある朝、A子さん(57歳)は電話で叩き起こされた。両親が住む高齢者施設からだった。「お母様がグッタリされているので、救急車で緊急搬送致します」。

A子さんは岩手県出身で、結婚後はずっと都内に住む。高齢となった岩手に住む両親のことを気にかけ、頻繁に帰省しては可能な限りのケアをしてきた。しかし、父親(85歳)の認知症、母親(83歳)のパーキンソン病ともに、症状が悪化したため、昨年、実家近くの高齢者施設に両親そろって移ってもらった。そんな中で、コロナ禍となる。

当然、ずっと会えない状態は続いていたのだが、緊急搬送の連絡を受けた6月上旬は県をまたぐ移動の自粛解除前。飛んで行きたくとも、行けない状況で、回復を祈るしかなかった。幸いにも母親は10日間で退院。原因は熱中症だったそうだ。

85歳認知症の父が「ガラス戸をこじ開けようとして大変だった」

ようやく自粛が解除された6月下旬、急ぎ、施設に飛んだA子さんだったが、感染防止の観点から施設には1歩たりとも入れず、両親とはガラス越しの面会になったという。

「父は(ガラス窓の向こうにいる)私がどうして中に入ってこないのかが理解できず、ガラス戸をこじ開けようとして大変でした。父の隣にいる母は車椅子に座ったままで元気がないように見えました。差し入れすら許されず、つらかったです」

高齢者施設によっては、誤嚥ごえんや食中毒を避けるために、家族同伴の下であれば差し入れの食品を食すことができるケースもある。だが、この施設では家族が接触できないので、必然的に差し入れNGになるのだ。

今、A子さんのような切ない思いを抱えている人は多い。入院患者も基本、お見舞いは受け付けていないが、高齢者施設でもそれは同じ。これはコロナの感染リスクがある限り、面会制限も続くということを意味する。家族であっても、自由に面会はできないのだが、これがとりわけ「中にいる親」にとって大きなダメージとなるリスクがある。

神奈川県にある有料老人ホームのケアマネのSさんはその実態をこう話す。