【佐々木】自陣から攻めていく、つまりキーパーからディフェンス、ミッドフィルダーとボールをつないで、最後にフォワードがシュートを決める、という形は理想です。でも、そんなに綺麗に一連の動きが決まることはほとんどない。それはデータ上からも明らかです。
それよりも敵陣でボールを奪ったほうがシュートまで持ち込む確率は断然高くなる。ですから、相手のキーパーがボールを蹴るときは、すぐ自陣側に引く、という決めごともしていました。すると相手のキーパーは、近くにいるディフェンダーにボールを渡さざるをえなくなる。そこで初めて全員で相手に迫り、畳み掛けるようにしてボールを奪いシュートまで持っていくんです。それは欧米の選手にはできない。規律に沿って戦うことができる日本人だからこそ可能なんです。
【藤原】これは監督のマネジメント手法の一つ、「勝つ可能性を高める戦略・戦術を立てる」に基づいていますね。
【佐々木】守備のときも一般的なセオリーである「自陣ではボールをフィールドの中から外に追い出す」、つまり自分たちのゴールからなるべく遠くへボールを追いやる、という動きもしないことにしました。日本の選手は体格的に欧米に劣ります。自陣のサイドにボールを追いやっても、サイドから高いセンタリングを上げられ、中央で長身の相手フォワードに競り合われたら、不利になってしまう。
それであれば一般的なセオリーとは逆に、自陣であってもボールを「外から中へ」追い込むようにしたんです。ボールがフィールドの中にくるということは自分たちのゴールにボールが近づくわけですから確かにリスクは高くなる。でも日本選手の規律や俊敏性を用いれば、外から高いセンタリングを上げられるよりも、中にボールを追い込み、それを皆で一斉に囲んで奪い取るほうが、ゴールを決められてしまう確率は低い、と考えたんです。こうした戦術を採用するにあたってカギになったのが澤でした。