下半身筋力が低下した母親の排泄処理・陰部洗浄をする独身の中年息子

母親はこの事故が原因で、日に日に身体機能が衰えていく。ヘルパーのAさんBさんの会社に連絡しても、折り返しはない。ケアマネや市役所に相談しても、たらい回し状態で全く力にならなかった。

2017年3月。エックス線検査をしたところ、以前にはなかった第4腰椎の圧迫骨折が見つかる。

年配女性の手を握る男性の手
写真=iStock.com/nito100
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「本来なら、あの後すぐに大きな病院へ連れて行きMRI検査をするべきでした。MRIなら、骨折が最近のものか昔のものかわかるのです。でも、普段から検査続きで負担をかけていたため、母がふびんに思えてしまい、その検査をしませんでした」

事業所の不誠実な対応にいら立ちを感じた狛井さんは、弁護士に相談しようと思った直後、母親が気管支炎をおこし、危険な状態に陥る。

何とか回復するも、下半身の筋力の著しい低下により、トイレで排泄することが困難に。平日の日中はヘルパーさんや看護士、それ以外は狛井さんが、ベッドにて排泄処理・陰部洗浄を行うようになった。

衰えていく母親「ゆっくり食べたいんやったら老人ホームに入るか?」

狛井さんは、平日の朝食はいつも30~40分かけ、なるべく母親が自分の手で食べられるよう、介助をしながら見守るようにしていた。しかしだんだん時間がかかるようになり、会社へ行く電車の時間が迫ってくると、イライラしてこう言ってしまう。

「お母さん、そんなにゆっくり食べるのやったら会社に遅れてまう。ゆっくり食べたいんやったら老人ホームに入るか?」
「いやや、行けへん」
「あかん、行ってもらう」
「いやや、行けへん。ここにおりたい」

余裕がなかった狛井さんは、ついカッとして怒鳴った。

「あかん、もうおらんでいい!」
「わかった、行く~!」

思いがけない母親の言葉にわれに返り、狛井さんは母親の前にひざまずいて謝った。

「私の母に限らず、親にとっては一番つらい言葉だったと思います。母以上に息子の私自身が、母と離れて暮らすことなんてできないとわかっていたのに、あの日はひどいことを言ってしまいました」