「新しもの好き」とされる広島の県民性も影響しているのだろう。中国・四国地方の中核都市である広島は、都会のミニ版として新商品のテストマーケティングによく活用される街でもある。
「フィンランド人と気質が似た日本」を重視
「東のUber Eats、西のWolt」とも称されるウォルト。東アジアへの進出は日本が初めてで、3月の広島を皮切りに6月に札幌市、7月に仙台市と地方から日本市場を攻めてきた。ウーバー・イーツは2016年9月に日本に上陸し、東京から勢力を拡大。後を追うウォルトは地方からと、いわば「真逆」の戦略を取る。なぜか。
「まずフィンランド人は奥ゆかしい気質を持ち、日本人との共通点がある。食文化が豊かな日本への進出は、コロナ禍以前から慎重に検討してきた。将来的に東京を含む全国展開を目指す」とウォルト・ジャパンの新宅暁マネジャー。「日本は出前文化の国だが、店員が配達するには限界がある。海外のデリバリーで寿司の人気は高く、ギグワーカーによる配達の潜在的需要は高いと考えた」
最初に広島を選んだのは、人口がヘルシンキとほぼ同じ約120万人で「本国でのオペレーションをそのまま試せると考えた」(新宅氏)ため。さらに市民球団として親しまれる「『広島東洋カープ』の試合中継をテレビ観戦する需要が高い」と踏んだためだ。その後の展開が札幌、仙台と続いたのは、北欧に近い寒冷地で、本国における雪国の厳しいオペレーションがさらに生かせると考えたことも理由のようだ。
狙いは当たった。アプリ分析調査会社フラー(千葉県柏市)によれば、ウォルトの利用者数は3月以降、増加傾向にあり、札幌でサービスが始まった6月の利用者数は前月から倍増。「エリア拡大とともにユーザー数は伸びていくはず」(担当者)という。
弱冠30歳の敏腕CEO
ウォルトは2014年にヘルシンキで設立、2016年からフードデリバリーを開始し、8月末現在で世界23カ国80都市以上に進出している。
創業者のミキ・クーシ氏は1989年9月生まれの弱冠30歳。大学中退後、起業家の集まるテクノロジーのイベント「Slush」の企画運営に携わり、数万人が集まる世界有数の規模に育てあげ、東京開催まで実現させた手腕を持つ。
ミキ氏は米サンフランシスコを訪れた際、ウーバーの配車サービスを利用したことで「ウォルト」の事業化を思いついたという。「特段の意味のない、音遊びのような名称」(新宅氏)で、北欧4カ国での展開を経て、欧州や中央アジアへと世界進出を加速させているのはこの2~3年で、その一環が日本進出だった。
原資は、これまでに調達した約2億8000万ドル(約300億円)の資金。NOKIAやSupercellといった錚々たるIT通信系企業の経営陣からも出資を受けており、今年3月には英フィナンシャル・タイムスが選ぶ「Europe's Fastest Growing Companies 2020」(欧州で最も早く成長中の企業)で初登場2位に選出された、将来有望なITベンチャーだ。