日本人は「パイを大きくする工夫」を忘れている

【内田】社会全体でパイが大きくなっているときには、分配方法について文句を言う人は少ないんです。各自の取り分が前日より増えていれば、とりあえず文句はないんです。でも、パイの拡大が止まったり、縮小が始まると、いきなり手元のパイから隣のパイに目が移る。「おい、この切り分け方はおかしいんじゃないか。どうして隣のやつがオレより取り分が多いんだよ」というようなことを言う人が出てくる。必ず、出てくる。「パイをどうやって大きくするか」より、「誰もが納得できる合理的な分配ルール」とか「厳正な格付け基準」という話に話題がシフトする。

でも、分配方法をどれほど合理的にしても、格付け基準を厳格化しても、それはパイの増減には何の関係もないんです。どうやってパイを大きくするかについて、みんなで創意工夫をこらすべきときに、その時間とエネルギーを分配方法の策定に浪費しているわけですから、パイは日々縮んでゆくに決まっている。そして、パイが縮むほど、分配方法についての議論はさらにかまびすしくなる。僕はそれがこの四半世紀にわたる日本の凋落の実相だと思いますね。90年代まで日本はITでも、工業製品でも、あるいは学術情報の発信やエンターテインメントでも、世界標準レベルのものを供給していた。それがわずか20年で、一人あたりのGDPで世界2位から26位まで落ちた。これだけ急激な凋落を経験した国は歴史上それほどないです。その理由は「パイを大きくする工夫」を忘れて、「パイの分配方法の工夫」に国民が熱中してきたせいだと思います。

コロナ感染が広がる一番の原因は「同調圧力」

【岩田】内田先生のお話を聞いて思ったんですが、もしかするとこの新型コロナウイルスのパンデミックが、人の足を引っ張りあう社会から脱却する、一つのチャンスになるかもしれません。

内田樹・岩田健太郎『コロナと生きる』(朝日新書)
内田樹・岩田健太郎『コロナと生きる』(朝日新書)

コロナの感染が広がる一番の原因は、同調圧力」なんです。みんなが一つの場所に集まるから、どんどん感染が広がっていく。逆に言えば、「人と違うこと」をやり続けていれば、感染リスクはどんどん減っていくんです。ところがこの「人と違うこと」に、今の日本人の多くは耐えられない。

「リモートワークの環境が整ってるなら自宅で働けばいいじゃん」となっても、「同僚が電車に乗って会社に通ってるのに、俺だけ家にいるのは許されない」とか言って、みんな出勤する。他の人と合わせないことで、ペナルティをもらうことを恐れてるんですね。

僕は毎朝5時過ぎからジョギングをするんですけど、その時間だと、例えば自宅から六甲アイランドまで往復11キロぐらい走っている間、ぜんぜん人に会わないんです。週末はたいてい、このくらい走ってますが、他に人もいないのでマスクもせずに普通に走ってます。それで他の人に「外を走っても、人がいなければコロナに感染はしません」と言うと、「じゃあジョギングは大丈夫なんですね?」と思われて、みんなでジョギングを始める。するとジョギングの集団ができちゃうので感染が広がる(笑)。