「先回りして作成した資料は、まとまったらすぐ事務的に渡すのではなく、先方の気持ちがそろそろ次の商品に向き始めたタイミングで見せるのが理想です」

商談は15分から長くても30分程度しかもらえないため、要点をまとめて簡潔に進めることを心がけている。

「バイヤーさんに予定外の仕事が入って、打ち合わせの場でキャンセルされることもあります。そんなときは、チェーン本部の隣にある物流センターに足を運んで情報交換をする。無駄な時間はつくらないようにしています」

店舗訪問のタイミングも気をつける。

「先方の上司とつながりのあるアサヒ飲料の担当者と連絡をとってスケジュールを確認、バイヤーさんに余裕がありそうなときに店舗を訪問してあいさつをすることもあります。そこでは、次の商談でなにを提案したいかといったことを前もってアピールしておきます」

相手の予定や精神状態を把握して対応するきめ細かさ。そして、1年先まで網羅する長期的視野に立った「先回りの営業」も見逃せない。

「12月は商品の出入りが一番激しいとき。昨年は、全店舗回って売り場の写真を撮りました。どこでどんな商品が売れて欠品しやすいのか、余裕を持って分析して、しっかり今年末につなげたい」

>>田原さんの分析

営業マンの時間管理には「スイッチ&スリム」というキーワードが大切だと思っています。営業という仕事は相手があって成り立つものですから、急な時間変更は日常茶飯事。そのとき、パズルのコマを動かすように効率よくスイッチして、空いた時間をほかの大事な案件に使えれば、無駄が少なく生産性の高いスリムな仕事ができます。ぽっかり時間が空いたからといって、ボーッとしていてはもったいない。精神的にもさっと切り替えができることが重要です。

増田さんはほとんど完璧に「スイッチ&スリム」をこなしている。ドタキャンされても重要な仕事(コマ)をすぐ持ってこられるし、常に先回りして戦略を立てているので余裕ある営業活動ができる。先方の急な要求に対応できたのもうなずけます。

分析:田原祐子(たはら・ゆうこ)/営業戦略コンサルタント。ベーシック代表。オール電化住宅ブームに貢献した陰の仕掛け人。『あなたは、部下のやる気をなくさせていませんか?』など著書多数。
(ベーシック代表 田原祐子=分析 小川 聡=撮影)