いずれも、働くうえで不安を感じない仕組みをつくるためだ。20年4月以降は、オンラインで実施している。
「オンラインでも仕事ができる仕組みと文化をつくることに力を注いできた。たとえば、普段からの社員間のコミュニケーションでさえ、オンラインがベースになっている」と取締役CTO(最高技術責任者)の海老原智氏は語った。
全社での在宅勤務を可能にしたもう1つの取り組みがある。それは入社時のオリエンテーションなど研修の文書や、自社サービスを説明した動画を制作してきたことだ。
職場での研修で役立つのはもちろん、会社に出勤しなくても、オンラインで動画を視聴すれば、各自で仕事を覚えることができる。並行し、担当メンターが新入社員を一定期間サポートする。
同社は採用面接の時点でオンラインも活用する育成のあり方を伝え、納得のうえで入社してもらっている。会社のカルチャーにフィットするかをとても重視し、面接では1時間~1時間半をかけて本人の意思を確認する。
「オフィスなどリアルな職場での仕事は、オンラインでの仕事に付加価値を与えるものでなければいけない。在宅勤務は1つの手段であり、目的ではない」(海老原氏)
“在宅勤務バカ”につける薬はあるか
紹介してきたように、業務効率を落とさずに在宅勤務を取り入れるためには、様々な施策が必要だ。
最も大切なのは日頃からの人事の体制や取り組みである。たとえば上司と部下や部員の人間関係、個々の担当や責任と権限の明確化、報告・連絡・相談のあり方、労働時間管理やペーパーレス化(電子化)、社内のIT化、個々のITスキル、情報漏洩対策など。地道な準備や心構え、会社全体の意識を変えることが必須になってくる。
マスメディアには「在宅勤務は今後の時代を見据えた働き方だ。素晴らしいんだ!」とただ闇雲に称える、いわゆる“在宅勤務バカ”が次々と現れている。「通勤がない」など光の部分にしか目を向けない、自称・人事労務分野の専門家たちだ。
実態を心得ることなく、「最高だ!」と声高らかに叫ぶだけの“在宅勤務バカ”に、惑わされないようにしたい。
彼らにつける薬があるならば、リアルな現場を見つめることしかないのではないか。