このように、特に中小企業では導入や運営、社員間の意思疎通、仕事の進め方、人事評価、労働時間、健康管理で問題が多いと指摘されてきた。これらの課題がありながらも果敢に取り組む小さな会社こそ、メディアで取り上げるべきではないだろうか。そうでないと、問題点を浮き彫りにすることはできない。

今回は、中小企業4社の在宅勤務導入のリアルな現場を紹介する。導入したがうまく定着しない企業や、これから本格導入したいと思っている担当者は参考にしてほしい。

業務効率化はもちろん、メンタルケアも大切

映画、ゲーム、アニメと幅広いジャンルのCG映像制作業を行うGEMBA(渋谷区・従業員数70人)。20年3月上旬にシステム担当者が導入案をまとめた。全社員が同時期に始めると混乱が生じると想定し、1週間ごとに各部署で数人ずつ自宅作業を開始。社内全体では、毎週15人ほど増えるペースだ。自宅で仕事をする社員は問題点や課題をチャットツールで全社員に伝え、共有し、早急に改善する。

20年4月中旬には、全員が自宅で仕事をする態勢に。数人の社員のネットワーク回線が十分に整備されていないために、やりとりが一時的に遅れることがあった。会社として補填費用を負担し、早急に回線を引いて対応した。

さらに納期を守るために社員間の情報共有を徹底。各部署やプロジェクトごとのオンラインミーティングを繰り返し行い、進捗や問題点を確認し合う。

注意したのは、仕事とオフの切り替えがしづらいために、心身が不調になる社員が現れる可能性があることだ。そのため管理部を中心に全員の労働時間や心身の状況を出退勤や在籍管理のソフトを通じて毎日確認した。問題がある場合はその時点で改善。産業医との面談を継続し、希望者を募り、悩みを打ち明けるようにした。

全社員を対象に意識調査も行う。20年4月、5月に1回、20年6月は2回。管理部は、特に労働時間と健康状態の項目の回答を精査した。

20年6月から現在までは、20~30人が出社。この態勢は当面維持する予定だ。仕事の内容をもとに、1カ月ごとに人数や出社する社員を決める。オンとオフの切り替えをより明確にしたい社員や、20年4月入社の社員は、本人たちの希望を優先し、当分は毎日出社とした。

同社社長の工樂くらく英樹氏は「働くうえでの選択肢が増え、経営のあり方に幅や厚みが出てきた。今後、地方で仕事をしたい人が在宅勤務をできるようにもしたい」とコメントしている。