家をもたず、車の中で寝起きしている人たちがいる。彼らはどんな理由で「車上生活」を送ることになったのか。NHKの取材班が、約6年間、同じ道の駅で寝泊まりしている1人の男性に出会った——。

※本稿は、NHKスペシャル取材班『ルポ 車上生活 駐車場の片隅で』(宝島社)の一部を再編集したものです。

「猫のおじさん」が寝泊まりする駐車場と猫
写真提供=NHKスペシャル
「猫のおじさん」が寝泊まりする駐車場と猫

「3世代で車上生活」足取りを追っていると…

取材のきっかけは、昨年夏。群馬県で暮らしていたある女性の死だった。「3世代 1年車上生活か」との見出しで報道された女性。娘と孫の3人で、1年にわたって軽乗用車の中で暮らしていた。軽乗用車をどこに停めていたのか。家族の足取りを追っていくうち、居場所の一つとして浮上したのが、埼玉県内の道の駅だった。

売店や食堂の営業が終了した深夜。閑散とし始めた道の駅の駐車場に、長距離トラックやキャンピングカーなど何台かの車が停まっていた。ここまではいつもと同じ景色だが、しばらく眺めていると、明らかに様子の違う車がいることがわかる。

その見た目は似ている。後部座席に日用品が満載されている。またフロントガラスは目隠しで覆われ、外から見えないようになっていることが多い。

数週間にわたって取材を続けていくと、こうした車は1台や2台ではないことがわかってきた。この道の駅では、多い日で1日10台近い車が夜を明かしていた。

駐車場で寝起きしている高齢の男性

車上生活というのはけっして限定的な、特殊な人々の身に起こることではないのかもしれない。そんなことを感じながらもどのように取材を進めて行けばいいのか、この頃は皆目見当もつかないでいた。

どうしたら車上生活を送る人たちにアプローチできるのだろうか――。そんなことを考えていると、一人の女性職員がどこからか私たちの取材テーマを聞きつけて、声をかけてくれた。

女性職員は10年以上この道の駅で働いている、一番の古株だという。3人家族を見かけたことはないが、やはり車上生活を送っている人は少なくないという。そして、この道の駅で車上生活を送っていた人のうち、過去に何人かが熱中症や心筋梗塞で亡くなったのだと教えてくれた。

「こういうところで亡くなっているのを『珍しい』と思わなくなっていますね」

駐車場を見つめながら、やるせない表情で語る女性職員。今も車上生活を送っている人はいないのかと尋ねてみると、少なくとも5~6年、この駐車場で寝起きしている高齢の男性がいるという。その男性はお店の営業が終了した夜の6時頃になると、毎日決まって軽バンでやってくる。そして、お店の正面の定位置に車を停めて夜を明かすのだという。どんな人なのかと聞いてみたが、その男性の年齢や名前はまったくわからないそうだ。

「普通の常連さんだったらね、世間話くらいはするんだけど。話しかけても全然、無視されちゃって」