「みんなの意見を聞く」とアートでなくなる

新宿東口といわれてすぐ思い浮かぶものといえば、スタジオアルタぐらいしかありませんでした。さまざまな経緯から東口の駅前は20年程手つかずになっていたのですがJR東日本とルミネから、このエリアを美化整備する際に、アートを主役にした文化発信の場をつくりたいというお話をいただきました。そこで僕はコンセプトから広場全体のプロデュースまでを任せてもらうことになりました。

新宿は乗降者数世界一の駅です。その駅前の広場といえば、世界一、人の視界に入る「作品」になる。しかもそれが街の一部として残っていく。ただつくったものを置くだけでは面白くないと思ったんです。

ただ、そこから先は大変でした。最初に僕が描いた青写真を見て、実現できると思ったのはほんの一握りの人たちだけでした。大変だった行政への説得は、プロジェクトを信じ動いてくれる人たちがいたからこそクリアできました。何かあれば許可を出した彼らの責任になってしまうわけですから当然です。だからこそ僕はアーティストとして、文化価値か安全かといった二者択一ではないアプローチで新しい価値観を浸透させることに努めました。

安全性や機能性も大事ですが、みんなの意見を聞いてやっていたら、最終的にはエッジが全部とれて「まんまる」なものしかできなくなります。作家が関わる意味もなくなります。そうしないために必要なのは、「できません」と言われたときに「じゃあ変えます」ではなく「絶対これでないといけないんです」と説得するためのコミュニケーションの力と知識です。

新宿のような巨大な駅にアートを基軸とした広場をつくるというのは日本では前例がありませんが、本気でやろうとすると創作活動以前のやりとりがあまりに大変で疲弊してしまうからだと思います。

「巨大なゴミ」扱いになるリスク

こうしたことを抜きにしても、パブリックアートはアーティストにとってリスクが非常に大きなものです。今回の新宿東口広場は、景観的にも雑然としていて、普通に見たらアートを置くのに最も適さない環境です。せっかくつくっても下手をしたら「巨大なゴミ」扱いになってしまう。しかもそれに自分の名前がついてずっと残ります。

一方で新宿は「東京らしさ」が凝縮されたような街です。ハイエンドからサブカルまで多様な文化のレイヤーがあり、世界中から人が集まる場所でありながらローカルな個性が根付いている。そうした対極性を自分なりに表現できたらこの不利な環境を反転させられると思いました。

広場の象徴となる7メートルのステンレス像〈花尾〉は、花を持つ人がモチーフになっていますが、時代や地域もばらばらな装飾柄が混然一体となっていて、見る角度、見る時間で印象が大きく変わります。これが新宿を訪れる人にとっての新しいランドマークになると同時に、地元のコミュニティに愛される存在になってほしいと思っています。

アートを中心に据えてリニューアルされた新宿東口駅前広場。その中央にあるのは「花束を持つ人」をモチーフにした7メートルの巨大ステンレス像〈花尾〉。
撮影=澁谷高晴
アートを中心に据えてリニューアルされた新宿東口駅前広場。その中央にあるのは「花束を持つ人」をモチーフにした7メートルの巨大ステンレス像〈花尾〉。