10代で妊娠した際に約6割が中絶を選択

また、災害時には社会不安によって女性や子どもへの暴力が増加傾向になるというデータもある。例えば「彼氏に体を求められ、断れずに性交渉をした」「彼氏がコンドームを付けてくれない」「父親や兄弟など同居家族から性暴力を受けた」という事例もあるそうだ。「若者の性の乱れだ、不謹慎だ」と批判する大人もいるが、自宅が安全ではない子どももいる。一瞬でも安心したいという心理から、恋人に体を預けたくなる心理は責められるものではない。自分がされている・していることが性暴力だと自覚できていない場合もある。このように、コロナ禍で10代の妊娠・中絶相談が増えたことにはさまざまな要因が絡み合っているのだ。

平成29年度に厚生労働省が発表したデータによると、10代の出産は約1万件に対して中絶は約1万4000件で、10代で妊娠した際に約6割が中絶を選択している。全年齢の中絶選択率が15%であることに比べて圧倒的に高い数字だ。

「中絶=悪」という単純な話ではない。染矢さんによると、10代で出産する子も約4割いるが、学業と妊娠継続・育児を両立できず学校の中退を余儀なくされたり、パートナーとの生活に不安を覚えて離婚し貧困に陥るケースも少なくないという。孤立し、追い詰められて子どもを虐待してしまう場合もある。

義務教育で性交渉について触れない学校が多い

なぜ10代の妊娠・中絶が起こるのか。それは日本の不十分な性教育に問題がある。

文部科学省による学習指導要領で、保健体育の授業で最低限教えるべき性教育の内容が定められている。小学校4年時に第二次性徴や月経・精通、中学校1年次に思春期の体の変化や生殖機能の成熟、中学校3年時にエイズをはじめとした性感染症の予防について教えることになっている。ただ、「小・中学校の時点で性交渉について深く取り扱うのは不適切だ」という論調があり、学習指導要領には「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」と記載されている。そのため性交渉については触れない学校が多い。

2018年に東京都の公立中学校で、中学3年生に避妊や中絶について踏み込んで教えたという事例があり都議会で問題視された。だが、正しい知識に基づく性教育が必要だという世論の高まりに応える形で、2019年3月に改訂された東京都教育委員会作成の「性教育の手引~中学校編~」では、文部科学省の指定した学習指導要領を超える内容については保護者の理解を得られた場合に限るなど、一定の条件のもと容認されるという方向性に変わった。保守的だった性教育が一歩前進したといえるが、性教育の実施は学校の裁量に任され、保護者の理解が得られなかった生徒との教育格差につながるという問題がある。