お粗末すぎる「感染防止徹底宣言ステッカー」

「誰が言うこときくもんか、潰せるもんなら潰してみろ」

ガハハと笑って吐き捨てる威勢のいいおばちゃん、小池都知事のことは大嫌いだ。言うこときかない、は合言葉のようなものか。

「あの女は悪い女だよ、あの本だって読んだろ、あんなのに入れた人の気が知れないね」

ここでも366万票の話、さすがにおばちゃんは怖いのであおらないでうなずくだけにする。感染防止徹底宣言ステッカーは貼られていない。

「20万円ぽっちもらってもねえ、それにあれ(感染防止徹底宣言ステッカー)って意味ないよ」

別に都庁職員や感染症対策の担当者が申請したら1件1件チェックするわけではない(場合によっては訪問、確認すると東京都防災ホームページには小さく書かれてはある)。あくまで自己申告で、自分でプリントアウトして貼るなんともお粗末な代物だ。そもそもそんなステッカーを貼っても、歌舞伎町そのものが閑古鳥、20万円もらうくらいならあくまで「お願い」なのだから協力しないで常連に飲み食いしたもらったほうがいいと考える店主がいるのは無理もない。

「あの女のパフォーマンスが気に入らないし、意地でも使ってやらないの」

おばちゃんはとにかく小池憎し。ちなみに彼女、親しみを込めておばちゃん呼ばわりしているが、その正体は古いオタクが聞いたらびっくりするような御仁である。歌舞伎町の飲み屋は彼女のように一筋縄ではいかない過去を持つ人ばかり、コロナ程度でへこまないが、こうも東京都から締め上げられては文句の一つも言いたい気持ちもよくわかる。ましてや7月24日に風営法を盾に見せしめの立ち入り検査を歌舞伎町のあちこちで強行したばかりなので反発も強い。

感染防止宣言ステッカー
写真=筆者撮影
感染防止宣言ステッカー

ホテルは3割も埋まっていない

午後11時を過ぎた。そろそろ終電を急ぐ人でごった返しているはずなのに、歌舞伎町の人通りは少ないまま、一度ホテルに戻り出直すこととする。

「今日は3割も埋まってません、週末でも半分埋まるかどうか」

定宿にしているホテルのスタッフがこぼす。コロナ以前ならカプセルホテルすら泊まれないような信じられない価格で泊まれる。うれしさより心配のほうが先に立つ。

深夜2時の歌舞伎町、花道通りに戻ってみるも、かつてのにぎやかな歌舞伎町の姿はなかった。5月、スカウト狩りのころはコロナ前ほどではないにしろ元気で活気があったのに今は静かなもの。ホストやキャバ嬢の集団もわずか、とにかく人そのものが少ない。歌舞伎町交番の警察官も一人、ぼんやり外を眺めてる。いつもなら声をかけられるのを待っている女の子ややんちゃな若者がたむろしているハイジア(東京都健康プラザ)前も青年が一人スマホを眺めているだけ。昼間も夜も、これだけ人がいないのでは歌舞伎町という街がもたないのではないか。

花道通り
写真=筆者撮影
深夜の花道通り、明らかに人は減った

歌舞伎町の惨状は日本の未来

「生きるのに必死だよ!」

台湾人だという立ちんぼのマッサージ嬢、本当に台湾人なのか、大陸の中国人なのかはともかく(イメージが良いので台湾や香港を名乗る場合もある)、生きるのに必死なのは事実だろう。彼女の立ち続ける午前3時の歌舞伎町一番街、引っかかってくれそうな酔っぱらいどころか人間がほとんどいない。まるまる太ったドブネズミの影だけがネットカフェのネオンに照らされている。この歌舞伎町を這いつくばる私たちから都庁は見えない。しかし都庁の「おんな城主」から歌舞伎町は見下ろせるだろう。彼女が望む歌舞伎町になったということか。いったい誰のための都政なのか。

こんな悲惨な街になるまで追い詰めるほどに、本当に歌舞伎町はコロナを東京中にまき散らしていたのか、ならばいま、この原稿を書いている8月の都内感染者の増加は何なのか、もう歌舞伎町は死にかけている。それでも感染者は収まらない。思えばパチンコの時もそうだった。すでに「夜の街」そのものの罹患者は少なく、家庭内感染や感染経路不明が大半を占めている。

責任逃れの悪者を仕立て上げ、「魔女狩り」を煽動するやり口ではコロナなど抑え込めるはずもなく、「Go Toトラベルキャンペーン」で東京を除外したにもかかわらず大阪や愛知といった同様の大都市は野放しにして感染者記録を更新し続けている日本。いったい何がしたいのか、大げさでも意図的でもなく、この世界有数の歓楽街の疲弊は決してひとごとではない。実際、大阪のミナミや名古屋の栄も同様に苦しんでいる。歌舞伎町のこの惨状は日本の都市経済の未来そのものである。

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