「アカウントを作り、バッグを入手すれば、すぐに始められる」

そんな彼でも、ウーバー配達員の中で運転マナーの粗暴な者を見かける割合は、以前も今もさほど変わらない印象らしい。

「ただ、新型コロナの影響でバイトや仕事を失う人が続出し、その一方でフードデリバリーの需要が高まったので、以前に比べてウーバーイーツの配達員が5倍ほどに急増しました。つまり分母が増えたので、比率は同じでも、危ない運転をする配達員の絶対数は確かに増えています。その上、あの大きなバッグを背負っているので、余計に目立ってしまう」

そもそもウーバーの仕事は、運転マナーが荒くならざるを得ない状況の上に成り立っているのだと彼は言う。

まず、乗り物で公道を走ることが前提の仕事なのに、ウーバーでは自転車配達員に対する安全運転教育がほとんど行われていないのである。

「就業前、ビデオや座学といった講習を受ける義務はありません。配達員専用のアプリを落として自分のアカウントを作り、例のバッグさえ入手すれば、すぐに仕事を始められます。一応、毎回の始業前に配達員用アプリを立ち上げる際、交通安全に関する注意事項が出てきて、文末の『同意します』を押さないと業務を開始できない仕組みにはなっています。ただ、配達員が事故を起こしたり事故に遭ったりしても、『このようなことがあったので他の配達員も注意して運転するように』といった注意喚起を受けたことはありません。あってもいいと思うのですが……」

注文してから届くまで2時間近くかかることもある

そして配達員は商品を届けた後、注文客によって満足度評価を受けることになっているのだが、この制度も悪質運転が続出する一因になっている。

料理がこぼれたり崩れたりしていない限り、評価の基準になるのは主に、配達完了までに要した時間だ。大半の客は、ウーバーイーツのアプリで商品を注文した時点で、実店舗にも『注文が通った』と思うはずだ。アプリ上には、注文を受け付けた旨の表示が出るからだ。しかし実際には注文を受けてから、その客に商品を届ける配達員を決めるまで、ウーバー側には最大30分の猶予がある。その間、ウーバーは当該店に最も近い場所にいる配達員から順に〈この店での商品受け取りと配達を引き受けてくれないか〉とアプリを通じて打診する。その打診を引き受ける配達員が現れた時点でようやく、『注文が通った』ことになるのだ(30分以内に担当配達員が見つからなければ、注文自体がキャンセルされる)。

「ところが打診を断る者が続出すると、最終的に店からかなり遠い場所にいる配達員が引き受けることがあるんです。そうなったら、配達員が決まるまでに30分近くを要した上に、離れた店まで商品を取りに行く時間がかかってしまいます」

しかも人気店だとオーダーが立て込んでいて、店に到着してからも配達員が待たされることがある。それやこれやが重なると朝や昼といった繁忙時間帯には、客が注文してから商品が届くまで2時間近くかかってしまうこともあるという。