全米ダンス大会で優勝経験のある名門・宝仙学園女子ダンス部には、部員自身の決めた「部則」がある。その内容は「校内ではスマホの電源を切る」などかなり厳しい。生徒たちは、なぜそこまで厳しい自己管理を課しているのか。顧問の氷室薫氏が解説する――。

※本稿は、富士晴英とゆかいな仲間たち『できちゃいました! フツーの学校』(岩波書店・岩波ジュニア新書)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/webphotographeer
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「ダンス部を変えたい!」新卒コーチが掲げた目標

2020年、私が宝仙学園女子ダンス部の顧問になってから10年目を迎えました。ダンス部のコーチになった時、私はまだ22歳。当時の高校3年生とは年齢が4つしか変わらず新任でもあったため、生徒たちからすると、先生というより年の近いお姉さんのような感覚だったと思います。

当時のダンス部は問題が多く、問題児が集まる部活というような悪いイメージもありました。また、流行りのK‐POPやJ‐POPを完全コピー、いわゆる「完コピ」が中心、自分たちで「オリジナル」のダンスをつくることはほぼありませんでした。ただ、「オリジナル」に対しての憧れはあり、自分たちでつくってみたい、でも方法が分からないという状態でした。

そのような状況で、新米の顧問に「今までの部活を変えたい」と言われたら生徒たちはどう思うでしょう? 実際、賛否両論あったと聞いています。ただ、その時の部長と副部長が、よく分からない私の提言に「やりましょう」と賛同してくれました。

私はダンス部に「REVOLUTION(革命)」というスローガンを掲げます。自分たちの力で今の状況を変える経験をしてほしい。環境は自分が変わることで変わるということを実感してほしい。そんな強いメッセージを込めました。

そこから5月の体育祭に向けて本当に必死に頑張りました。私は音源作成、衣装集め、振りづくりをし、生徒たちははじめての振り付けを一生懸命覚え、難しいフォーメーションを覚え、時に私から厳しい言葉をかけられながら一致団結しました。

一緒に汗をかき、一緒に楽しみ、一緒に悩みました。大人の本気を見せたことで生徒たちも諦めずに最後までついてきてくれました。

部長に言われた「先生は甘すぎます」

ダンス部が全国大会にはじめて出場したのは4年目のこと。3年間で基礎をつくり、ようやく全国大会という大きな花をひとつ咲かせることができました。その頃、ダンス部には大きな変化がありました。それは自分たちで「部則」をつくったことです。

ダンス部が3年目を迎えた時、部の中では「大会に出場するだけではなく結果もほしい」「全国大会に出場してみたい」という意見が出始めました。真面目に練習をするようになれば全国大会という目標も頭に浮かぶのは当たり前です。

その時、部を率いていた部長は私に物申してきました。

「先生は甘すぎます。ルールは守るためにあるのではないですか?」

真っ向勝負のどストレートです。正論すぎました。

彼女の言う「ルール」とは「校則」のことです。彼女は中学の時、強豪の吹奏楽部に所属していました。部活内のルールが厳しく練習もハード。いろいろな大会で他校を見ていた経験もあり、全国大会に出場するためには部活内に「規律」が必要と訴えてきたのです。

ここで私は面食らいます。まさか生徒がこんな提言をしてくるとは思わなかったのです。そして教員として恥ずかしいなとも思いました。正直、その当時は部員のだらしのない部分も見て見ぬ振りをしていたこともありました。注意しても生徒は「は~い」というひと言で終わらせてしまうこともありました。

あまり注意しすぎても部活が嫌になっても困るし、と内心思っていたのです。その甘い気持ちを捨てて「鬼」になろうと決めたのは、その瞬間です。目指すは「全国大会」。本気になっている部員に懸けてみようと思いました。