イノベーション競争に勝ち抜く挑戦は必要

2009年8月6日、日産自動車が発表した2010年度からのリチウムイオン電池搭載の電気自動車は、自動車業界のイノベーションそのもの。

2009年8月6日、日産自動車が発表した2010年度からのリチウムイオン電池搭載の電気自動車は、自動車業界のイノベーションそのもの。

さて、日本経済はリーマン・ショック以降、厳しい経済情勢にある。補正予算を組み、財政による景気刺激策が実施されているが、このタイミングでは、ケインズの処方箋を使わざるをえない。イノベーションは、景気回復から持続的成長を見通したところに組み込まなければならない。

では、どんなテーマがあるのか。やはり、地球温暖化などの環境問題、そして少子高齢化といった問題が大きなテーマとして浮上してくる。特に地球温暖化問題では、日本の自動車産業は1日の長がある。かねてから明確な問題意識を持って技術開発を進めてきた。家電など電気機器産業も同様である。

例えば、日本の自動車産業が、長く世界でトップの地位に君臨しているのは、70年代に二度のオイルショックを経験したからにほかならない。このときに資源は有限であるという意識が芽生え、排ガスなど環境問題も浮上した。

これにより、自動車は燃費効率が意識されるようになった。以来、日本の自動車産業は、たゆまぬ努力で技術開発を続けてきた。その結果、世界で、とりわけアメリカで認知されて、日本車人気は年々高まり、シェアを高めてきた。その対極にあるのが、GMやクライスラーである。燃費の悪い車をつくり続けてきた結果、GMやクライスラーがどうなってしまったか。あえて語る必要はないだろう。

日本の自動車産業は、世界でもっとも早くから環境問題を解決すべく技術を磨いてきたといえる。世界同時不況で、需要が縮小し、減産を余儀なくされて自動車産業の足下はたいへん厳しい。しかし、環境問題に取り組んできた結果として、海外の自動車メーカーに先んじてハイブリッド・カーや電気自動車を市場に投入することができた。

電気機器産業も目を見張るものがある。テレビ、エアコン、冷蔵庫などの省エネ化が進んでいる。電機の専門家に話を聞くと、省エネ性能が一番進んだのは冷蔵庫で、次がエアコンだという。

今、省エネ家電を購入するとエコポイントがつく。エコカーを買えば、エコカー減税や補助金もつく。ケインズの言に沿った財政による景気対策の一環だ。

では、なぜエコポイントやエコカー減税なのか。今回の不況では、裾野の広い自動車産業の落ち込みがきつかったということもあるが、自動車産業の未来は、ハイブリッド・カーや電気自動車が担う。そこで税金を使って応援するならばエコカーという流れがあった。省エネ家電のエコポイントも同様の理由だ。

経済の持続的な成長のためにイノベーションへのチャレンジ、あるいはイノベーション競争に勝ち抜くための挑戦は必要だ。これは、必ず成功が約束されているわけではないし、失敗すればつぶれてしまうこともある。

だが、チャレンジを乗り越えて成功をつかんだとき、ビッグチャンスが待っている。自動車でも、電機でも、日本のメーカーは明確なコンセプトを持って技術開発して、世界のトップランナーとして走り続けている。それは企業自身のためで、一国の経済の持続的な成長につながるからだ。

シュンペーターは、同時代人として米国のニューディール政策を目にしている。だが、彼は基本的には成長は民間が主導すべきで、不況時でも政府が表に出てくることには批判的だ。「有効需要の理論」についても、そもそも「マクロ」で経済を見ることに批判的だったから、ケインズをまったく評価していない。しかし、21世紀に生きるわれわれとしては、両者のいい部分を取ればいいと思う。2人の天才の経済学を両方活かして、将来の持続的な成長にむけた方策を考えることが大切だ。


※すべて雑誌掲載当時

(構成=山下 諭)