Journey is the Reward
最後に、装丁について少し。カバーには写真を使いたかったが、ジョブズが20~30代の頃の写真だとぱっと見てわからないのでやめた。最近の写真となると激ヤセなどもあって選びづらい。冒頭に紹介したアルバート・ワトソンのモノクロのポートレートなら、芸術作品のような風情があり、「昔と今」をうまくつないでくれそうだった。そこで写真家に問い合わせたところ、アップル社が買い上げたという。だめもとでアップル社に連絡を入れると「あの本には絶対使わないでほしい」と丁重に、しかし固く断られた。いまだにこの本、アップルでは禁書となっているらしい。
結局、デザイナーの竹内さんのアイデアで、「透明人間」にした。顔を出さずに記号としてのジョブズを表現するために考えついた奇策である。ジョブズは人前に出るときにはいつも同じ服を着ている。黒い長袖Tシャツ、ジーンズ、スニーカー。黒シャツはイッセイ・ミヤケ、ジーンズはリーバイス、スニーカーはニューバランスのものだ。各社に問い合わせてジョブズが着ているデザインまたはそれにいちばん近いものを借りた。写真はカメラマンの澁谷高晴さんが弊社で4時間以上かけて撮った。
透明人間の頭上には、原著名の「Kingdom」と、ジョブズの「王様」ぶりをあらわすため、王冠をあしらった。この王冠、コレクター用のミニチュア(そう竹内さんが発見)を物撮りしたものである。由緒あるフランス王のものだ。なぜフランス? それは本書を読めばわかることになっている。
それからあともう一つ。Stay Hungry, Stay Foolishで締めくくられる、あまりにも有名なあのスタンフォード大学卒業式でのスピーチ。引用というかたちは無理だったので、いろいろ考えてあるところに一部を……使った。探してみてほしい。480ページ。たしかに厚い。長い。iPhoneもiPadも出てこない。でも、ジョブズの好きなこの言葉を胸に、ぜひ最後まで味わって読んでいただければ幸いだ。
Journey is the Reward.