わかりやすく言うと、個人の資産状況をクラウド上に保管し、必要なときに個人の指示で金融機関からアクセスさせる仕組みです。たとえば、次のような指示、振り込みになります。
・借り手はA銀行に対してクラウド上に保管してある書類情報にアクセスするように依頼する
・A銀行がクラウド上にアクセスしようとすると借り手の携帯に確認メッセージが来る。借り手が許可するとA銀行は情報にアクセスできるようになる
・もし、借り手がA銀行から借りないと決めた場合には、アクセス許可をキャンセルする。するとA銀行はクラウド上の情報を得られなくなる
いちいち書類を持って銀行を訪ねたりしなくてもいいし、借り手にとっては少しでも早くお金を借りることができる便利な仕組みです。貸し手にとっても信用の審査が非常に短い時間でできるようになるわけです。
ただ、現在、日本、アメリカ、ヨーロッパでは、GAFAのような巨大IT産業に対して個人情報を勝手に流用することを規制する方向に向かっています。インドの場合はそれとはまったく次元の異なる世界へ舵を切ったわけです。積極的に自らの個人情報を活用してもらおうという政策です。
「高額紙幣廃止」は現金商売から完全脱皮
政府が2005年から計画してきたデジタル金融プラットフォーム「インディア・スタック」にはアドハーを主軸にして住民票、銀行口座、納税申告、運転免許証や携帯電話番号を連結させます。
2015年には加えて「デジロッカー(Digilocker)」というクラウド上に、こうした書類や卒業証書、職歴、診療記録などの個人データを保管・共有できる機能が加わりました。さらに「イーサイン(E‐Sign)」というデジタル署名認証も法制化され、利便性が高まっています。
2016年にはデジタライゼーションはさらに進化しました。「UPI(Universal Payment Interface)」という金融決済システムが完成し、アドハーの番号と携帯電話番号や決済用アドレスがあれば、わざわざ相手の住所や銀行口座を入力しなくても簡単に送金、入金の決済ができるようになりました。インドのデジタライゼーションはここまで進んでいます。
2016年11月、モディ首相は「高額紙幣廃止、新紙幣発行」を断行しました。日本の方たちは「インドの税務当局が脱税撲滅に躍起になった結果」と思われているかもしれません。しかし、それだけの理由ではないのです。
インディア・スタック、デジロッカーなどのデジタル金融プラットフォームが確立したから、国内に飛び交う現金を強制的に吸い上げることが可能になったわけです。インドはキャッシュレス社会に向かうんだという宣言でもありました。経済活動の9割が現金商売であったインドが、いよいよデジタル経済への完全脱皮を宣言した、というわけです。